ヒトはそれを『発達障害』と名づけました

ヒトはそれを『発達障害』と名づけました
筑波大学DACセンター (監修), 佐々木銀河 (編集), ダックス (著)


「発達障害」という言葉について、具体的な3つタイプ(ASD、ADHD、LD)を紹介するとともに、どんなことに困っているのか、どうしてくれたら助かるのかが漫画形式になっていて、読みやすい言葉で解説されていました。

本書の著者は発達障害の当事者であり、それを漫画で伝えたいと広報に携わっているとのことで、素晴らしい活動だと思いました。

 

 

発達障害を「個性」と捉えるのか、「障害」と捉えるのか、とても難しい問題だと思います。

さらに、グレーゾーンという言葉もあり、今まで周囲のサポートやちょっとした工夫で乗り越えられたことでも、環境が変わることで対応できなくなってから自分の特性に気付くこともあります。

どこまでが特性で、どこからが障害なのか、それは現在困っているかどうか、なんとかやっていけるかどうかでも変わってくるものだと思います。

 

 

そのため、大切なのはまず「自分が何かしらの発達特性があるのかも」と認識すること。学校の先生や周囲の大人からの指摘も有効。

どうしても「障害」という言葉だと大袈裟に捉えてしまって、それを認めたがらないケースもあります。

認識したら、周囲に「得意」、「苦手」、「補助」の3つのことを伝えること。(具体的には以下の3つ)場合によっては医師の診断書があると受け入れやすいと思います。

・得意だったり興味や関心のあること
・発達の特性や苦手なこと
・周りの人にしてもらえると助かること

 

 

発達障害という言葉を知っている人はたくさんいると思いますが、具体的に何に困っているか、何が苦手なのかなど、どんな特性があるのかを知らない人も多いと思うので、まずは知ってもらうという意味で本書は役に立つと思います。

できれば、学校教育としても組み込まれれば発達障害への理解が深まると思うので、広報として頑張ってほしいです。

 


ヒトはそれを『発達障害』と名づけました

穏やかな死に医療はいらない

穏やかな死に医療はいらない
萬田 緑平 著

がんを治すための医療ではなく、死から逆算してその日までどう生きるかという考え方で、寝たきりにならず、最後まで自力でトイレに行き、寿命を使い切って亡くなる死を目標として実践している緩和ケアの話です。

 

 

抗がん剤治療を行いながら最後まで病気と戦うというのも一つの選択だと思いますが、高齢の場合や副作用がつらい場合には、あえて抗がん剤を行わず、穏やかに、緩やかに自宅で患者と家族が死を受け入れていくという考え方は共感できました。

とはいえ、自宅に戻って家族に迷惑をかけたくないと考える患者さんの思いももちろん理解できます。

しかし、緩和ケアというのは特別な用意はいらず、介護保険の範囲内でベッドやマットレス、歩行器、ポータブルトイレなどを用意して訪問看護やヘルパーを利用することで案外穏やかに死を迎えられるという考え方は勉強になりました。

 

 

・血圧や体温、呼吸の変化も急変ととらえるのではなく、死を目の前にした自然な身体の反応ととらえることで、患者さんに苦しい思いをさせず楽になるようにする

・心電図を見るのではなく、感謝の気持ちやお別れの言葉を使えるほうがずっと大切

・穏やかな看取りは薬のコントロールで決まるのではなく、患者さんと家族の心の状態で決まる

・家族は「生きていてくれるだけでうれしい」かもしれないが、本人にとっては苦しい時間が延びるだけということもある

など、穏やかな終末期をいかに過ごすかのヒントが満載でした。

 

 

本書では、がん専門の在宅緩和ケアを行っている診療所の話でしたが、がん以外の他の病気でも同様に穏やかな死を迎えるにはどうしたらよいかという点も知りたかったです。

 


穏やかな死に医療はいらない (朝日新書)

精神療法でわたしは変わった

精神療法でわたしは変わった: 苦しみを話さずに心が軽くなった
増井 武士 著

独特の視点で描かれた精神療法で、勉強になることが多かった書籍です。

一般的な精神療法や心理療法の書籍では、


・患者さんがこう言ったら、治療者はこう返す

・患者さんのネガティブな発言を別の解釈で置き換える

・患者さんが訴えていることに対して、できていることを見つけていく


といったように、患者さんの言ったことに対して、治療者がどう振舞っていくかが描かれています。

 

 

ところが、本書ではそもそも苦悩を言葉にしたくない場合にどう面接を展開していくかが描かれており、今までの書籍とは一線を画します。

さらに、書籍の語り手が治療者ではなく患者さんになっていて、患者さんがどんな風に感じたか、どう思ったかを中心に描かれており、精神療法の中心が患者さんになっているのも斬新でした。

「私の精神療法は手っ取り早く言えば、ある精神的な病気に支配されている方々が、その病気に苦しむ自分自身の自覚を、まず深めることです。すると、いろいろな苦労をしている自分の感覚を見つけ出したりわかったりして、自己の理解が深まり、結果的に自己感覚が活性化して、精神的な苦悩への自己の支配感覚が広まります」

これは本書に登場する精神療法家の北野先生のブログの言葉ですが、患者さんが自分の感覚を深めることを大切にしていることがよく分かります。

本書を読んでいると、自分自身が患者のように、その感覚を疑似体験できるような感覚がありました。

 

 

本書の中で特に印象に残った内容を以下に抜粋します。

・私の方法では理屈を抜きにして、「ただなんとなく、すこし良い感じ」とか、「なんとなく、すこしおかしい感じ」という、”感じ”をとても大事にします。

・私の面接を受ける前と比較してみてください。もしくは、一、二ヶ月前の自分の状態と今の状態を比較してください。そのとき、今がすこしマシなら良い、その”マシ”を、私は非常に大切にします。私はあまりに早く、良くなることを期待していません。「以前からしてすこしマシなら、それでよし」という、ゆっくりした積み重ねを大事にします。

・心も自然の一部ですから、いつも快晴ではありません。「晴れときどき曇り、のち雨」というのが自然です。良いときもあれば悪いときもあるのが自然です。ただ、「悪いときに如何に早く立ち直れるか?」という意味で、立ち直りが以前より早ければ、それが良くなっていると言えるかも知れません。また、雨や嵐じたいが起こるのは避けられませんが、その”しのぎ方”を変えることはできます。

 

 

精神療法に興味がある方に、ぜひ読んでほしい一冊でした。

 


精神療法でわたしは変わった: 苦しみを話さずに心が軽くなった

19番目のカルテ 徳重晃の問診(7)

19番目のカルテ 徳重晃の問診【7】(ゼノンコミックス)
富士屋カツヒト 、 川下剛史

なんでも治せるお医者さんを目指して奮闘する医師の物語の第七巻です。

第七巻では、「ヤングケアラー」の話が印象的でした。

熱中症で倒れた19歳の岡崎さん。

熱中症が回復したあとも覇気がなく燃え尽きてしまったような状態の岡崎さんに対して、総合診療医の徳重先生がゆっくりと話を聴いていきます。

14歳の時に生まれた年の離れた弟は、先天異常症候群で生まれつき複数の内臓に異常が見られました。

 

 

家は事業の失敗で借金があり、父も母も働きづめで家にいないことが多く、幼い弟の世話をする日々が続きます。

2歳になると弟の病状も安定してきたのですが、岡崎さんが高校二年生の時、また弟の病状が悪化してしまいます。

面倒を見るため高校を休む日々が続き、高校に通えなくなり退学。

その後、母親も怪しい治療にはまり、家を出て行ってしまいます。

弟の病状はよくならず、そのまま亡くなってしまうのですが、弟が亡くなってホっとしている自分がひどい人間だと考えてしまうようになりました。

そんな岡崎さんに対して、燃え尽き症候群と判断した徳重先生。

 

 

元気になってもらうため、月に1、2回の通院をすすめ、色々なお話をしながら岡崎さん自身がやり遂げた事柄を思い出してもらうよう働きかけます。

話をしながら小さな成功体験を積み上げることで、再び自分自身を取り戻していくことをお手伝いする。

その後、岡崎さんが自分でやりたい仕事を見つけて前向きな気持ちになっていきました。

さて、今回徳重先生がやっていたことは、心療内科のカウンセリングのようなことだと思います。

本書では、岡崎さんが前向きになっていく経過は描かれていませんでしたが、このような働きかけはとても大切だと思います。

ただ、忙しくて時間のない医師が通常の診察ではここまで話を聴くのは難しいと感じました。

私がやっている鍼灸マッサージでは、一人ひとりの患者さんとゆっくり向き合えるので、患者さんが元気になったり、前向きになったりする働きかけは常に意識したいと思いました。

 

 

そのほかにも、腰痛と吐き気で受診した30代の患者さんの話も勉強になりました。

受診している間に右のお腹の奥も痛くなってきますが、腰痛は楽になっているようです。

そのほかに微熱もありますが、上気道感染もなく腹膜炎の兆候も見られないし、整形外科の検査でも異常なし。

診察が長引いたため痛み止めをもらって帰りたがる患者さんですが、それでも何か違和感がある。

何か見落としがあるのではないかと諦めきれず色々話を聴いていく中で、ようやく一つのヒントを見つけ出していく話です。

 

 

これとは違うケースですが、私も先日ちょっと気になる腰痛患者さんがいらっしゃいました。

1か月前からの腰痛がだんだん酷くなり、イスに座っていても右腰がチクチクする。

横になるのもうつ伏せ以外は寝ていられず、立ち座りのたびに腰が痛いが、一度歩き始めれば少し楽になる。

立った状態で後屈はできるが、前に屈んだり、左右に動かすことはほぼできない。

患部(痛む場所)を軽く触れただけでも激痛。

何となくいや感じがあったので、軽めの施術と、立ち座りやベッドからの起き上がり方、体の動かし方の助言に留め、整形外科の受診をすすめました。

数日後、再び患者さんがいらっしゃり、当院のあとに整形外科を受診したらレントゲンも特に問題なく、今は腰痛が半分以下になったということでした。

結果的に問題はなかったようですが、自分自身で分からないこと、何か気になることがあればそれを放置せず必要な対処を考える(今回のケースでは整形外科の受診をすすめる)ことの重要性を改めて認識した出来事でした。

 


19番目のカルテ 徳重晃の問診 7巻 【特典イラスト付き】 (ゼノンコミックス)

精神科医の本音

精神科医の本音 (SB新書)
益田 裕介 (著)

現在の精神科医療の実情について、率直に語られていて分かりやすかったです。

益田先生が作成している、精神科の実態を知ってもらったり精神疾患を解説したり、心理教育の補助を行う目的に作られたYoutubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」の取り組みも、精神疾患を知る有用なものだと思います。

 

 

本書では、採血や画像診断のような検査もなく、ただの会話を元に診断をする精神科医療において、どんなふうに診察しているのか、外来以外の治療手段はあるのか、医師の選び方、医療体制や経営の話など、様々な側面から精神科医療のことが説明されていました。

また、経済的な問題や労働の複雑化などの社会的な問題から精神科の患者さんが作られてしまう側面もあるという話も説得力がありました。

経済的問題では、貧困やシングルマザー、ヤングケアラーではどうしても負担が大きくなる人が増え精神に不調をきたしやすくなる。

労働問題では、仕事内容の高度化、複雑化で、社会から単純な仕事が減り、向かない仕事にでも従事せざるをえない労働環境が増えていることで、発達障害や適応障害の患者が増える。

精神疾患は個人の問題だけでなく、社会とも深く関わっており、精神疾患の患者数は今後も増えるというのはその通りだと思いました。

 

 

印象に残っている内容を以下に抜粋しました。

・多くの人が「治療」という言葉から連想するのは「元の状態に戻る」ということだが、精神科医療で扱う病気の場合、「受け入れる」や「共存する」のイメージの方が近い。だから、即効性のある薬物治療だけを治療だと思うと、面食らってしまう。治療が長期にわたることもあるので、通院のたびに、「患者さんに病気や自分、心というものについて学んでもらう」ことを続けるのが精神科医療の治療になる

・精神科を受診する目安として、以下のようなものがある
「食事が採れているか?」、「眠れているか?」、「動悸がしたり、涙が出たりしていないか?」、「残業時間の多さ」、「死にたい気持ちがあるか?」

 

 

ただ、正直疑問に思うところもありました。

再診が5分しか見ないのは診療報酬制度の問題とありますが、それは精神科だけの話ではなく、どの科も同じようだと思うのでやり方も工夫できるのではないかと思いました。

また、経済的、社会的豊かさも精神疾患の増加の一因だと思います。

高度経済成長期では、食うために働く、より豊かな生活のために働くという時代で、この時代では現在よりも精神疾患の患者さんは少なかったと考えています。モノが行き渡り食べるものに困らなくなったからこそ、逆に生きにくさに苦しむ人が増えているという現実があるのかもしれません。

 

 

さらに、気軽に精神科を受診できることも精神疾患の患者を増やしている一因だと感じますが、このあたりはとても難しい問題だと思います。

精神科や精神疾患について、色々なことを考えさせられる一冊でした。

 


精神科医の本音 (SB新書)