本のエンドロール

本のエンドロール (講談社)
安藤祐介

中堅の印刷会社である豊澄印刷を舞台にして、一冊の本ができるまでにどれだけの人間が携わっているかを丁寧に描いた物語です。

営業、工場作業員、DTPオペレーター、デザイナーなど、多くの視点で本ができるまでの工程やそれぞれの仕事の意義、やりがい等が描かれていて読み応えがありました。

本ができるまでには、本を書く人、企画する人、作る人、配本する人、売る人がいて、普段は関わり合いがなくてとも、一本の道上で繋がっていることが実感できる内容になっています。

印刷会社はメーカーだという自分なりの想いをもって営業の仕事をする人
毎日の仕事を手違いなく終わらせ、印刷機の稼働率を保つことを仕事の信念としている人
本が大好きで作家の文章を入力し・編集する仕事を天職だと思っている人

多くの個性豊かな人物が登場していておもしろかったです。

本書のタイトル通りのエンドロールが最後に掲載されていたのもよかったです。

こうすることで、本作りに関わっている人がいかに多いのか読者は実感できるし、本作りに携わっている方々も誇らしいと思います。

本好きの方におすすめの一冊です。

オカシナ記念病院

オカシナ記念病院(角川書店)
久坂部 羊

現代の医療の問題点を通して、生とは何か、死とは何かを問いかける医療小説です。

久坂部さんはブラックユーモアたっぷりの医療小説が多い印象ですが、本書は近代医療の矛盾を分かりやすく説明したもので、考えさせられる内容でした。

真面目一辺倒の研修医が離島の南沖平島で行われている「ほどよい医療」に驚きながらも、少しずつそれを理解していく過程が楽しめました。

がん検診や認知症対策、禁煙対応がことごとくうまくいかない様子は、いかに離島で暮らす患者さんの意に沿っていないかを示すものだったと思います。

・東京では最良の医療を求めて症状がないが病気を見つけるが、この島では患者が積極的な医療を求めない。

・医学は安心を高めなければならないのに、予防医学を強いて病気の恐怖で患者を怯えさせ、不安ばかり大きくしている。

・治療はした方がいい場合もあるし、しない方がいい場合もある。近代医療は治癒と延命ばかり追い求めて、死にゆく人への配慮が欠けている。

この考えは確かに都会では受け入れがたいと思いますが、こんな病院もあって、患者が自ら選択できるといいなと思いました。

病院でちゃんとやってよ

病院でちゃんとやってよ (双葉文庫)
小原 周子

リハビリ病棟で働く看護師が、無知で無責任な患者家族と奮闘する様子を描いた医療小説です。

トイレに行けるようにしてほしい
家事ができるようにしてほしい
病院に一生入院させてほしい

年齢や病状を考慮すると病院としてできる限界というものがありますが、それが患者の家族には分からず、「治る」と考えてしまうところに、高齢社会の難しさがあると思います。

現実を受け入れて、介護サービスを利用しながら自宅で介護をするか、施設に入れるかを家族で決めなければなりません。

その場合でも、自宅に帰りたいと望む患者と、自宅での介護は無理と拒否する家族がいます。

その間に挟まれて苦悩するリハビリ病棟看護師の視点で描かれた物語は読みやすかったです。

「介護には家族の協力が必要である」ことは皆分かっていると思いますが、自分の生活と仕事も大事。

自分がその立場になったときどんな選択をするか、考えさせられる話でした。

僕のこころを病名で呼ばないで

僕のこころを病名で呼ばないで(日本評論社)
青木省三

病気のこと、子どものこと、周囲のかかわり方について、分かりやすい言葉で、丁寧に語りかけてくるような優しさが感じられる良書でした。

病気と健康は二者択一ではなく、グレーゾーンがあって、どちらも併せて持つのが人間。

診断名や病名という枠組みを通してみるだけでなく、その陰に隠れて見えなくなっているその人自身の悩みや苦しみや喜びにきちんと向き合うことが大切だ、という姿勢には非常に共感できました。

誰かに助けてもらったことに感謝しつつも、クライエントが自分自身の力で乗り越えた実感をきちんと残していく「ほどよい支持」という考え方も好きでした。

本書で紹介されていた、イギリスの小児科医ウィニコット氏の「ほどよい母親」という概念が勉強になったので紹介します。

子どもは愛情を注がれることによって成長するが、まったく困らないほどに愛情に満たされたのでは子供の成長を妨げてしまう。
子どもはいくらかの不足や不自由があってこそ成長する。
もちろん愛情が甚だしく不足しては成長を妨げてしまう。
「過不足のない愛情」というのが大事である。

ドナルド・ウィニコット(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%83%E3%83%88#%E3%81%BB%E3%81%A9%E3%82%88%E3%81%84%E6%AF%8D%E8%A6%AA

この「ほどよさ」というのは治療や介護でも、重要な考え方だと思います。

本書では主に子どもや青年のことに対して描かれていますが、大人にも十分に励ましや示唆を得られる内容になっていると思います。

緩和医療と心の治癒力

緩和医療と心の治癒力 (築地書館)
黒丸尊治

ただ黙って穏やかに死を迎えるというイメージの緩和医療の現場において、

代替療法にすがる患者さん
治療的な関わりを希望する患者さん
痛みをとって安らぎを求める患者さん

など、様々な患者さんとの触れ合いや想い受け止め、医療者としてどう考え、どう向きあってきたのかが真摯に語られていた良書です。

余命宣告された患者さんは、現実を受け入れることは難しく、死と向き合うことができない。

そんな中でも、苦痛や苦悩を少しでも和らげることができれば、信頼感や安心感が生まれていく。

そして、何か心地よいと感じることに意識が向いてゆったりした時間を過ごす中で、余計なこだわりがなくなって穏やかに過ごすことができるのではないか、という黒丸先生の考え方に共感できました。

リラックス系の代替医療や治療系代替医療なども多く紹介されていて勉強になりました。

治癒や自然寛解だけが希望なのではなく、いかに穏やかに最後を迎えることができるのか、そのためにどうやって心の治癒力を働かせるのか、学びが多い一冊でした。