人生百年時代の生き方の教科書

人生百年時代の生き方の教科書
藤尾秀昭 (監修)


人生100年時代の後半、75歳以上の時代をどういった心構えで過ごしていけばよいか、の知恵が詰まっていた一冊です。

忍耐・覚悟が大事、何が起こっても文句を言わず受け入れる、感謝して喜びながら生きていく、生涯現役・生涯修業、他人がどう思うかではなく自分がどう生きたか、真心を尽くすなど、どんなときでも絶望せず生き抜いてきた方々ならではの教訓が満載で勉強になりました。

 

 

特に印象に残った言葉を以下に抜粋します。

・佐藤愛子(作家)

われわれは何かにつけて、取るに足らないことで愚痴をこぼしたり、泣いたりしがちですけどね、そういう時に「上機嫌」というのを義務の第一義に置くと、生きていく力が出るんじゃないかと思うんです

・五木寛之(作家)

朝顔の花が咲くには、朝の光に当たる前に、夜の冷気と闇に包まれる時間が不可欠なんです。人間も同じで、明るい所で光を見ても、その明るさは感じにくい。闇の中で光を見るからこそ、それを光明と感じて感動し、生きる意欲も生まれてくるのです

 

 

・田中真澄(社会教育家)

商売というのは簡単なんだよ。太陽のように生きればいいんだ。太陽は二つのものを人に与えてくれる。一つは熱。熱意を持って人に接すれば、その熱は自然と相手に伝わる。もう一つは光。光を与えて相手を照らし、関心を持ってその人の存在を認めてあげることが大事なんだ

 


人生百年時代の生き方の教科書

縮んで勝つ: 人口減少日本の活路

縮んで勝つ: 人口減少日本の活路
河合 雅司 (著)


以前にご紹介した「未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起きること」を読んで、その後に興味があったので本書も読んでみました。

ブログ:未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起きること
https://nishigahara4-harikyu.com/blog/future-chronology-big-change-industry


「未来の年表」では、人口減少が各業界にどんな影響を与えるのかが中心に描かれていました。

本書では、前半は日本の人口が減少することでどんなことが起こるのか、最新の人口統計や出生率を元に改めて記載されていて、未来の年表を読んでいない人向けの振り返りになっていました。

また、高齢者に色々な負担増を求めながら、貧困に苦しむ就職氷河期世代、つまり将来の高齢者をどう支援するか、その財源をどこから確保するかという2040年問題の話が新たに語られていました。

 

 

後半の人口減少にどう対応するかについては、本書で述べられている内容でも難しいと感じました。

「外国人依存からの脱却」は、現在の人手不足問題を解消する手段として外国人雇用は外せない選択ですし、円安で日本に来る観光客が増えれば、その中の外国人が日本に住みたいと考える可能性もあるので難しそうだと思います。

女性を「安い労働力」から「戦力に」というのも、ますます少子化に拍車がかかりそうです。いかに子どもを産みたい、育てたいと思わせるか、それに皆で協力するか、そのアイディアを出す必要があると思います。大家族化の促進を促したり、引退した高齢者を活用したり、子育てしやすい環境づくりも重要だと考えています。

 

 

「従業員一人あたりの利益を高める」は、企業や経営者がどの従業員にどんな能力やスキルを身につけてもらうか具体的なリスキリング内容を業務として命令すると書かれていましたが、現状大企業で行われている黒字リストラのように40代、50代を切り捨てるような企業文化では難しいのではないでしょうか。

それよりも、企業に依存するのではなく、昔ながらの商いを個人または少数で協力して行い、継続してビジネスを続けるスタイルの方がよいと思います。

 

 

素人考えですが、個人や小規模の農家、漁業、肉屋、魚屋、豆腐屋などの食糧系、水道、電気、ガスの修理、交換などのインフラサービス系、個人経営のクリニック、歯科、薬局などの医療系など、小さい形ですがリストラや定年、減給の心配をしないですむ小規模な個人店を増やす方がよいと考えています。なぜなら、昔の人口が少ない時代はそうしていたからです。特に食糧自給率を上げるのは最優先です。
これにITやAIなどを使って効率化や機械化をどう組み合わせていくのかがこれからの課題だと思います。

人口減少が止められない社会をどう生きるか、何をするべきか。政府だけに任せるのではなく、現状維持バイアスに縛られず個々人で考えるきっかけになる書籍だと思うので、多くの人に読んでいただきたい内容でした。

 


縮んで勝つ ~人口減少日本の活路~(小学館新書)

こころに届く授業

こころに届く授業: 教える楽しみ教わる喜び
河合 隼雄 (著), 谷川 俊太郎 (著)


心理学者の河合さんが算数を、作家、詩家の谷川さんが国語をテーマにして子どもたちの前で授業をするのですが、何かを学ぶこと、考えることが詰まった内容で勉強になりました。

本書の「はじめに」で書かれていますが、

『何を教えるかということはもちろん大切だが、いかに教えるかということも負けず劣らず大切。そこのところが少しないがしろにされているのではないか』

ということが現在の学校の授業の課題で、河合さん、谷川さんの授業では子どもたちと一緒に楽しみながら考えていく関係を大切にしていたと思います。

 

 

河合さんの算数では、数字が割り切れるかどうかどうやって分かるか、という話をしていました。

印象的だったのは間違っていることに対してもそれを責めるのではなく、相当いろいろ考えて出た考えに対して、なるほど・そういうふうに考えたのか、と共感しつつ、違う考え方をしていることを否定せずおもしろがることです。これが子どもたちに考える意欲を与えたり、色んな考え方があることへ気付きを与えるきっかけになると思いました。

谷川さんの国語では、五十音は言葉だけではなく、音や声、文字という概念があり、表情があるということを教えていました。

五十音を声に出して読んだり、俳句の5・7・5で読んでみたり、擬声語、擬音語で音がさらに豊かになることを学んだりと、声を出して、歌って、考えて、楽しい授業でした。

 

 

最後の河合さんと谷川さんの対談も学びが多かったです。特に印象に残った内容を以下に抜粋。

 

・間違った人というのは、ちゃんと一応の筋道の中で間違っている。そういう筋道をたどっていけば、むしろ本物の算数になっていく。学校の先生方は今日中にこれとこれを教えてないと、という教案を持っている。でも、そのとき子どもが間違った箇所ですぐに次にいくのではなく、「おもしろいことやったな、あんた。次、もうちょっと考えようか」伝えることで、考えたことが否定されず、答えに至るまでの道筋がおもしろいと感じられる

 

・赤ん坊のころは、お母さん、あるいはお母さんの役割をしている人は、子どもに「いい子、いい子」とか「よし、よし」とか本当に無意味な言葉をたくさんかけている。これは意味ではなく、声の愛撫だととらえている。だから、母親の声を聞くことで赤ん坊は安心しているし、母親は声をかけながら必ず同時にスキンシップをしている。言葉ってそうやって非常に幸せに習得し始めるともうが、子どもが成長してくるとお母さんも「やめなさい」とか叱る言葉、管理する言葉に変わっていってしまう

 

・みんなはよい家庭とか、よい親子関係というのは、問題が起こらないことだと思っているけど、これは大間違い。問題があるから人生は楽しいし、生きていれば色々ある。自分の子どもの今だけを見ていたら、学校に行かなくなったとか、ものすごいけんかをしてきたとか、マイナスみたいに思うけれど、それを経てプラスになる。何かあっても構わんぞ、という姿勢で子どもを信頼することが大事

 


こころに届く授業: 教える楽しみ教わる喜び

限界国家

限界国家
楡 周平 (著)


二十年後、三十年後の日本がどうなっていくのかについて、高齢者と若者の視点から小説形式で描かれていて考えさせられることが多かったです。

人口減少、産業構造の変化、雇用基盤の脆弱化など、今の日本が直面している問題が、いかに深刻かがよく分かる小説になっていました。

 

 

現在の政治家や役職についていた高齢者世代は、自分の出世や昇進、既得権益の保守ばかり考えていて先のことなんて知ったこっちゃないと思っている、という話は共感できました。

過疎高齢化が進む地域から代々受け継がれてきた伝統行事や祭りがなくなっていくという話も、人口が維持できなかったり、スポンサーになっていた商店が廃業してしまったりで、どんどん廃れていくというのも、すでに起きていることだと思います。

今の若い世代は、代々の政治家が行ってきた政治の延長線上で作られた国に生きていて、少子化、過疎高齢化はずっと前から問題視されていたのに改善どころか悪化しており、それを若い世代になんとかしろと押し付けられるのはたまったものではないという意見はもっともです。

だからこそ、今のネットネイティブ世代は国とか伝統への思い入れは少ないし、国境という概念のない世界で生きていくことが当たり前になっています。

 

 

IT技術が世の中をものすごいスピードで変えてしまい、今までの経験や知識が全く通用しない世界でいかに生き延びていくのか、これからの世の中はもっと大変になっていくと感じました。

また、人類は産業革命を経験してきていますが、過去の火を用いた産業革命と現在のコンピュータ、インターネットの出現による情報化社会の革命では、前者は新たな産業を創出し膨大な雇用を生んだのに対して、後者では雇用の創出どころか縮小させ労働の集約化が図られるという考え方は納得できる話でした。

技術の進歩は「人間の労働からの解放」であり、革新的な技術の誕生は効率化や人件費の削減に繋がります。

 

 

これから先の時代は人口減少に伴い、人手を減らす技術が導入され、「職業寿命」がどんどん短くなるという考え方は間違いないと思います。

では、職を失った人がどうなるかというと、その答えはなかなか見つかりません。

これからの日本が、ひいては世界がどうなっていくのか、その未来に向けて何を考えておくべきか、改めて考えるきっかけとなる一冊でした。

 


限界国家

上達論

上達論
甲野 善紀 (著), 方条 遼雨 (著)


本書では、ただ基本を繰り返すだけの練習の危険性や、新たしい事象に対して特定分野に熱心に取り組んだ経験がある人の方が習得が遅くなるという問題をとりあげていて、興味深く読みました。

上達のポイントとして、まずは直接技を受けてみる、理解できなくてもやってみるという考え方で

「大きく学んで、後から細部を整える」

ことをあげており、幼児の言語学習を例えに出して、細かく間違いを指摘するよりも、とにかく喋る、使う経験を続けているうちに、自然と言語を習得していく、という例えは分かりやすかったです。

 

 

また、「解釈」という自分の観点という物差しを通して元の情報を変形させてしまうことの問題をあげており、上達するためには、習得という足し算よりも、既存の情報を上書きするための捨てる、忘れるという引き算の能力の重要性を説いていて、分かりやすかったです。

人はどうしても先入観があるので、捨てる、忘れるのがいかに難しいか、だからこそ別の分野の経験者の方が上達も遅いということが納得できる内容でした。

周りの人がただ言われたまま続けていることを、上達する人は自分の体と対話しながら内部的実験・検証を繰り返している、という話も勉強になりました。

甲野先生でさえ、周りに失敗したことを見せることを恐れず、何度も同じことを繰り返しながら実験して次々と情報収集しており、失敗を重ねながら実験していくことの大切さがよく分かる内容でした。

 

 

他にも印象に残る内容が盛りだくさんでしたので、特に気になった内容を以下に抜粋しました。

・指導する側には適切な難易度設定が重要。「ほどほどに難しく、簡単過ぎない」のが一番おもしろく、ほどほどに失敗し、ほどほどにうまくいくラインを見つけていくのが上達のポイント

・物事の「こつ」とは「加減」で、加減とは「手触りとの会話」である。触覚の向上抜きに、物事の上達は本来あり得ない。あらゆる行為において、直接触れるという要素がとても重要

・失敗したことに対して、指導者が厳しく叱ったり、周りがバカにしたりしては育つものも育たない。失敗は笑い者にせず、笑い飛ばし、失敗しやすい環境をつくるのが大事

 

 

本書の後半は、甲野氏と方条氏の「完全武装解除」の原理に関する対談です。

何かをしようとすることや、力を抜いてうまくやろうとすることをやめるという方向転換をし、体という現場の判断に委ねるという考え方を取り入れて、松の木からの落下もほとんど怪我をせずやり過ごしたというものすごい体験が語られていました。

相手の崩し方や意識のもち方、脳がでしゃばる話、猫の妙術の話など、ものすごく深い内容でした。とても理解できるものではなく、ただただすごいということ、達人たちの凄まじさが伝わってきます。

 


上達論 基本を基本から検討する