カウンセラーの選びかた

カウンセラーの選びかた
ネヴィル・シミントン (著), 筒井亮太 (翻訳)


私はカウンセリングを受けたことはありませんが、自分自身が日々鍼灸マッサージの臨床で患者さんと向き合う際に、患者さんに対して励ましたり、慰めたり、褒めたり、注意したり、一緒に考えたりしているので、その参考になればと思って本書を読んでみました。

本書は、どうやってよいカウンセラーと悪いカウンセラーを見極めるか、についてカウンセラーの態度や振る舞いによる判別のヒントが描かれていました。

 

 

「心理療法は、その人の可能性を最大限に引き出すことを目的としている」ため、心地よいことばかり言うカウンセラーよりも、本当に自分が変わることを考えて、いやなことでも指摘してくれるカウンセラーが本当にクライエントのことを考えているカウンセラーであるという話は共感できます。

ほかにも、

・これまで分かっていなかったことや気付いていなかったことに気付けたか

・気分や気持ちが少しでも変化したか

・以前よりもいやな出来事や相手に対して、うまく対処できるようになったか

など、面接後のクライエント自身で、カウンセリングが有効だったか判断する方法が紹介されていました。

「よいセラピストのもっとも重要な特性は、あなたの物語のなかにある建設的要素を目覚めさせる能力である」という言葉も印象に残っています。

カウンセラーがクライエントの言動を観察するのは当然ですが、クライエントもまたカウンセラーのことを試したり、見極めたりしていることも忘れないように意識したいと思いました。

 

 

本書の終盤は、訳者の解説として日本のカウンセリング事情が記載されていました。

民間講座を受けただけの無資格セラピストでも自由にカウンセリングができてしまう現状において、どのような資格をもっていて、どんな訓練を受けてきたのかはカウンセラーを選ぶ際の重要な指針になると思います。

ちなみに、これはマッサージ業界にも言えることで、あん摩マッサージ指圧師の国家資格を取得して様々な場所で経験を積んでいる施術者と、短期間の研修を受けただけの無資格施術者とをどう見極めるのか、共通の課題があると思います。

 

参考ブログ:無資格者の施術について
https://nishigahara4-harikyu.com/blog/treatment-unlicensed-persons/

 

 

また、日本だと「カウンセリング = メンタルヘルス」と結び付けられ、否定的なニュアンスをもつことが多いそうです。

欧米では「自分を変えようと努力している」と受け取られるようですが、日本の場合は「精神的に問題がある人なのではないか」と思われてしまいがち、という問題もあるようです。

日本ではカウンセリングが自費であるため、色々と試してみるということは難しそうですが、カウンセリングを受けてみようと考えている人にとって、参考になる書籍だと思います。

 


カウンセラーの選び方

会社はどうあるべきか。 人はどう生きるべきか 評伝 伊那食品工業 塚越寛

会社はどうあるべきか。 人はどう生きるべきか 評伝 伊那食品工業株式会社 塚越寛
斉藤仁 (著)


塚越さんの年輪経営や幸せな働き方の本は読んだことがありましたが、貧困と病気で闘っていたことは知らなかったですし、どうやって今の会社の礎を築いてきたのか、興味深く読みました。

7歳の時に父を亡くし、母と自分と下の3人兄弟での貧しい生活に加え、高校生のときに結核を発症し3年の隔離生活を送らざるを得なかった逆境があったからこそ、本当の優しさや健康の大切さを誰よりも実感していたのだと思います。

 

 

「誰もが心地よく、働き甲斐があって、笑顔が絶えない会社にしなければ」という熱い想いを秘め、さらに環境が劣悪な会社で働くことになっても「これ以上の底はない。だからこれ以上落ちることもない。あとは上がるだけだ。夢がある。そう思えば力も出る」という逆境に立ち向かう力がすごかったです。

従業員たちに

「自分たちの会社なので、自分たちができることは自分たちでやるのが当たり前だと思った。みんなでやれば楽しい。設備が新しくなって会社がちょっとずつ大きくなっていくのが面白かった」

と言ってもらえるのは、塚越さん自身も率先して大変な仕事を行い、従業員と一緒に汗水流して働き続けたからだと思います。そんな従業員になんとか報いたい、という塚越さんの思いが心から伝わってきました。

 

 

1970年代には寒天の材料である良質な海藻が日本でほとんど買えなくなり苦しい時代を迎えます。

そんな中でも、チリやモロッコ、インドネシア、韓国など、海外に販路を拡大し、相手を信頼して相手の利益も考えてビジネスを行うという決断も素晴らしかったです。

さらに、どの国とも契約書を交わしておらず、信頼関係と誠意で何十年もうまくやっているというのは驚きでした。

また、増収増益を続けていながらも、大手スーパーからの引き合いを見送ったり、無理な増産や増設をせず、目先の利益よりも身の丈にあった安定的な成長を目指した年輪経営も、従業員たちの幸せを思えばのことだと思います。

そんな塚越さんの経営思想が、病気で亡くなった社員や、火事で家を失った社員に対して、全社員で助けるという考えに表れていて家族のような絆で結ばれている、というのは理想的な会社の在り方ではないでしょうか。

 

 

ほかにも印象に残った言葉を以下に要約して抜粋。

・企業経営で目的と手段をはきちがえてはいけない。金儲けは手段であり、目的は人の幸せのため

・寒天ブームは我が社にとって不幸な出来事である。なぜなら、そのブームは他力であって我々の努力ではない。他力で伸びたものは必ず萎む。有頂天になって必要以上の設備投資をしたり気が緩んだりするから、ある意味危険な状況だとも言える

 

 

・掃除は気づきの訓練だ。汚れているところを自分で探す。気づきこそ基本的な人間の能力の向上に繋がる。気づきは接客にも役に立つ。接客の基本は気づきだ。お客様が困っていないか、どんなことを望んでいるか、それを気づいて差し上げればお客様も喜ぶし、あなたたちも嬉しいはずだ。お客様を大切にしようとか、人のためになろうとか、そうした人として大事なことを気づきは育ててくれる

・しあわせってどんな形なんだろうとずっと考えてきた。人それぞれ価値観が違うから絶対的な形なんて存在しない。でも、ある程度物質的に不自由がないこと、もちろん健康であること、夢や楽しみも大事。そうしたことが末広がりに少しずつ広がっていく状態、それがしあわせの形だと思った

 


会社はどうあるべきか。人はどう生きるべきか。――評伝 伊那食品工業株式会社 塚越寛――

経営の失敗学

経営の失敗学
菅野寛 (著)


どうしたら成功するかのを定義するのはとても難しいので、これをやれば失敗するということを知ることで、気を付けるべきことを学ぶ一冊でした。

どうしたら成功するか、それが分かれば誰も苦労はしません。

ただ、成功しても次のヒット商品が出ず、市場がどんどん縮小して、事業を撤退することになればこれは成功とはいえません。

「持続的に利益が出ており、成長のための再投資や戦略変更のための投資が持続的に可能な事業である」

という著者の成功の定義は分かりやすかったですが、この「持続的」というのがとても難しいのです。

 

 

他者と同じことや今までの自社と同じことをやっていても成功せず(同質化)、今まで違うことをやっても成功しません。(異質化)

同質化では、差別性のない商品となって価格競争に陥り利益が減少する。

異質化では、慣れない不得意なことをやって失敗する。

松浦静山の剣術所「常静子剣談」から

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」

という言葉が引用されていて、失敗するケースの共通性を模索して、様々な角度からなぜ失敗するのかが考察されていたのは読み応えがありました。

 

 

以下に参考になった内容を要約して抜粋。

 

・情報が不完全でも、不完全な部分は仮説でもよいので現時点の結論を常に思っておく必要がある。情報が不完全だから意思決定ができない、というのであればいつまで経っても決断できない

 

・戦略とは企業の将来像とそれを達成するための地図である。地図には目的地(企業としてどうありたいか)、ルート(どうやって目的地にたどりつくか)、視点(何を重要と考えるか)の3つの要素がある

 

 

・自社の提供価値は何かを理解し、その価値を実現するために取れる手段は何かを考えることが大切。ヤマハは楽器を販売しているだけでなく、楽器の演奏を楽しむための教育や、人前で演奏する楽しさを与える場を提供するという価値を生み出している

 

・競合とは、顧客が考えるほかの選択肢のこと。あなたの競合が誰かを決めるのはあなたではなく顧客。それを勘違いすると、思わぬ競合の存在に気付かず、適切な対応がとれなくなる

 

・あらゆる行為に関して、その行為から何かを学び、その「前」と「後」で自分の行動をいかにより良く変えるのかを意識するかどうかで成長スピードに差が出る。小さな行為でも付加価値があるかどうかを意識することが大事

 


経営の失敗学 (日本経済新聞出版)

痛み、人間のすべてにつながる

痛み、人間のすべてにつながる――新しい疼痛の科学を知る12章
モンティ・ライマン (原著), 塩﨑香織 (翻訳)


痛みとは保護の仕組みであって、感知のシステムではない。

痛みとは、身体が危険な状態にあるという無意識の脳の判断を意識的に解釈することで、痛みは傷害に対する単純な反射反応というより、むしろ生体の健康状態に関する一つの見解である。

「痛みは身体組織の中でつくられ、脳によって感知される」のではなく、「痛みは脳がつくるものであり、私たちの安全装置兼守護者であり、組織損傷の通報者ではない」という最新の痛みの科学に根ざした見解は、痛み治療の新たな可能性を示唆していて、とても興味深く読みました。

 

 

本書では痛みの様々なケースが紹介され、痛みがたんに組織損傷からくるものではないこと、脳が痛みをつくりだしていること、周囲の状況や感情によって痛みの程度が変わること、を細かく示していて、とても勉強になりました。

痛みを感じない無痛症の患者さん、注意をそらすこと痛みが変化する実験、治療を信じる期待感が脳の薬箱を開ける話、情動と痛みの関係、痛みも状況によっては快楽になる話、痛みが伝染したり共感覚をもっている人の話、社会的孤立が痛みにつながることなど、多岐に渡る内容で、本当に読み応えがありました。

重要なポイントが多すぎてうまくまとめられませんが、個人的に印象に残った内容を以下に抜粋します。

 

 

・危険な戦場から安全な場所に行くことで痛みを感じなくなり、安全な立場から危険な状況に置かれたために痛みを生じさせるというのは、危険を知覚すると痛みがつくり出され、安全だと感じれば和らぐ脳の仕組みに関係がある

・ポジティブな言葉や暗示は、痛みにポジティブな効果をもたらす。安全だという感じを強め、危険だという感じを減らすポジティブな言い回しや比喩、考えが長期的な痛みを管理する上で効果的にはたらく

・悲しい気分が呼び起こされると感覚的・情動的な側面にかかわる脳の領域(扁桃体、島皮質、下前頭回、前帯状皮質など)の活動が高まり、痛みが悪化する

・誰かの心理状態をネガティブなほうに操ると、脳の中にある「不安の音量ボタン」が作業して不安が大きくなり、脳は痛みの出力を増幅させようとする。

 

 

・まったく同一の刺激が、ある文脈においては痛みを引き起こし、別の文脈では安堵と快感をもたらす現象を「快楽度の反転」という。これは安全装置としての痛みの役割であり、身体を均衡状態に近づけるものは快い刺激として感じられるし、身体を不安定な状態にさせるような刺激はすべて不快なものと感じられる。

・私たちは他者の痛みをミラーリングして、他者の行動を鏡のように映し出して反応しており、時々痛みの感覚までつくりだしてしまう場合がある。これは私たちがダメージを学習し、回避できるようにする防護のメカニズムであるが、それが過保護に働きすぎると、他社の動作でも痛みを感じるようになってしまう。

・ローテクかつ副作用ゼロの鎮痛薬、それは手で触れること。私たちは皆、安心させるように撫でられたり軽くたたかれたりしたときの、気持ちがなごむ心地よい感覚を知っている。これは大人でも乳児でも同じで、皮膚に存在するC触覚繊維が活性化し、痛みが緩和される

・痛みは社会的な意味をもち、孤独な人、疎外された人、声をもたない人など、社会に傷つけられた人では、痛みも悪化する。孤立や屈辱、威嚇、抑圧、不公平など、これらはいずれも身体的・情動的な痛みの経験をいっそうひどくする。痛みは安全によって鎮められ、脅威によってあおられる。

・編み物には運動+刺激豊かな環境+社会とのかかわり、といった様々な効能がある。リズミカルな反復動作は痛みの緩和剤であるセロトニンの分泌を促す。編み物は左右両側の調和の取れた動きで視覚的なインプットを行うことで脳の再配線が行われる。さらに創造的な活動は、目的意識や適応力、コントロール感を与え、やりがいや目標、賞賛、楽しみをもたらす。

 

 

では、持続痛に関する治療法はどうするのか。

本書では以下の3つがあげられていました。

変更:脳が安全だと感じるように身体と心、環境から脳の文脈を変更させる
視覚化:脳を奪い返して痛みを弱める
教育:知識は力なり

特に視覚化の話は印象的でした。

ミラーボックスによってつくり出される視覚的錯覚や段階的運動イメージ法で、脳が再訓練されて幻視痛や持続痛が除去できるという話や、実験参加者にVR映像で膝の関節が伸び縮みする映像を見せながら、他者がふくらはぎに手を添えて膝に向かって押したり、引っ張ったりすることで視触覚錯覚が生み出されて痛みが軽減したという話は驚きでした。

また、痛みを緩和できそうな7つの領域の頭文字をつなげて「MINDEST」となる話も分かりやすく、勉強になりました。

M:medications(薬物療法)
I:interventions(介入)

この2つは従来の医療の世界で用いられる鎮痛法。

N:neureoscience education(神経科学教育)

介入が治療者任せではなく、患者さんが自分で健康を管理する意識の重要性を示している。

D:diet(食生活)
S:sleep(睡眠)
E:exercise(運動)
T:therapies of mind and body(心と身体のセラピー)

D、S、Eは従来から言われているもの。

Tは認知療法やトラウマを扱うセラピーなど、様々なものが含まれる。

 

 

持続痛に手っ取り早い解決法は存在しません。

患者さんのことを、その人が抱える痛みとして見るのではなく、受容器と神経のまとまりとして見るのでもなく、人間として見るという新しい痛みの理解が必要だという最後の言葉には共感できました。

痛み、特に持続痛に関する様々な可能性や、今までの認識を改めるのに役立つ一冊でした。

 


痛み、人間のすべてにつながる――新しい疼痛の科学を知る12章

今夜も満月クリニックで

今夜も満月クリニックで
藤山 素心 (著)


夕方から夜だけ営業している、アンティークショップの中にある満月クリニック。

そこにいるのは大学病院で燃え尽きてしばし休養中の医師の赤崎で、診療は小児科、内科を診ていますが、やっていることは健康相談の仕事です。

本書は満月クリニックに来る患者の5つの短編集です。

①30代のワーキングマザーの腕のしびれ

②20代の新人女性社員の不眠と頭痛

③30代の育休中のSE男性のいびきと注意力散漫

④50代のライトノベル作家の手の痺れと同業の作家の訃報による不安

⑤40代女性の目のかすみ

 

 

街には病院やクリニックがたくさんありますが、患者さんの不安に向き合ったり、気になっていることを時間をかけて説明してくれる医師がどれくらいいるだろう。

そもそも何かあればすぐ病院へ、という患者さんが多すぎて一人ひとりに時間をかけることができなくなっていることが大きな問題ですが、本書では「健康相談に乗りますよ」という名目で、ゆっくり話を聞いて不安なことに答えてあげるというのが目的となっています。

まずは自分の話をしっかり聴いてもらえることが大切で、さらに自分がやってきたことを否定されずに、認めてもらえたり、褒めてもらえたりしながら信頼関係を築いていき、そして不安に思っていることに対するアドバイスがもらえること。

これが患者さんが求めていることだと思いますが、現在の病院やクリニックではそんな余裕はないところを、赤崎医師はとても誠実に対応していて、こんな医者がいたら相談したいと思う内容でした。

 

 

案外知られていない健康診断と人間ドックの違い、37度を超えると保育園を早退させられる理由、ワーキングメモリの話など、医療知識もきちんと書かれていたのがよかったです。

料金も初診料のみで○○加算といったものはなく、2910円に対する自己負担分だけ。

ただ、誠実な料金でもそれが最初に分からないため、患者さんは相談しにくいと思うので、そこは事前に提示しておくともっと安心できそうだと思いました。

患者さんが悩んでいるのは症状だけでなく、この先どうなるのかといった予期不安や、家族や職場の同僚に迷惑がかかるといった心配、真偽の正しくない井戸端会議やネットの情報への疑いなど多岐に渡っているのですが、それを和らげるには時間がかかるし、きちんと患者さんに向き合わないといけません。

 

 

この小説のような、そんな理想の健康相談が実現したら素晴らしいですが、現実ではなかなか難しそうです。

アンティーク店を経営する50代の女性オーナーの福尾も、過去に何かトラブルがあったようで、本書の終盤に少しだけその内容が明かされていました。

続編もありそうなので、楽しみに待ちたいです。

 


今夜も満月クリニックで (角川文庫)