ひまわり

ひまわり
新川 帆立 (著)


商社に勤務して海外を飛び回って仕事をしていた33歳の女性が、突然交通事故に遭い、頚髄を損傷して四肢麻痺になり、そこからリハビリを頑張り、就職活動をしたり、司法試験を受ける物語です。

主人公のひまりが、リハビリ、復職、就職活動、ロースクール入学、司法試験など、何かしようとするたびにどれほどの壁が存在していたか。

その壁を周囲に助けられながら、一つずつ乗り越えていくひまりにエールを送りたくなるくらい、勇気をもらいつつも感動の物語でした。

 

 

事故直後は体を起こすことさえままならず、地道に座位訓練と関節可動域訓練から始めていく。

少しずつ体が動くようになっても、ある程度までいくとリハビリしてもこれ以上改善しない、現状維持が精一杯というところに行き着く。

そんな現実に絶望感しかなくて、できないことを受け入れていく過程はとても切なかったです。

リハビリ医の先生が言っていた「安静は麻薬です」という言葉。

「安静にしていれば楽で気持ちがいい。しかもすぐに悪影響は出ない。でも確実に、活動ができなくなっていく。どんどん動けなくなって、楽しいことも嬉しいことも減っていき、患者さんを支える周りの人の負担も増えていく。どこかで覚悟を決めて、自分のことは自分でやらなくちゃいけない」

改善するなら希望がもてるが、現状維持が精一杯な状況でどこまで頑張れるのか。

 

 

やっと退院して元の職場に戻ろうとしたり、就職活動を始めても「前例がない」、「ヘルパーがつくと守秘義務に抵触する可能性がある」、「何かあったらどうするのか」といった壁にぶつかる。

よく分からないものは怖くて面倒くさい。

24時間要介護の人間は人のお世話になって静かに暮らしていればいい。

自分なら誰かの役に立てる、誰かの力になれると信じていても、「障害者」という現実が立ちはだかる。

 

 

そんな中、ロースクールの真鍋先生に言われた言葉がひまりを救います。

「言葉の力を信じなさい。言葉があるかぎり私たちはつながれる」

言葉の力を信じて、音声入力ソフトが使用できない前例に立ち向かったり、司法試験に必須の六法全書をめくったことすらない介助担当者と接したり、就職活動に挑んだりする展開は胸が熱くなりました。

 

 

そして、もう一つ大事なのが「ひまりなら、大丈夫」と励まして、信じてくれる人の存在。

そんな存在がいてくれるからこそ、何があっても頑張れる。

勇気と信頼と感動が詰まった珠玉の物語でした。

 


ひまわり (幻冬舎単行本)

音のない理髪店

音のない理髪店
一色 さゆり (著)


日本のろう学校ではじめてできた理髪科を卒業した一期生で、自分の店を持った最初の理容師である五森正一を祖父にもつ五森つばめ。

作家デビューしたものの、新しい作品が書けずに悩んでいたつばめが、祖父の半生に興味をもち、取材しながら祖父の生き様を描いていく物語です。

亡くなった祖父の半生を知るために、父、伯母、祖母、祖父の恩師と順番に話を聴いていく中で明らかになっていく、祖父の強い覚悟と信念を持った生き様は壮絶でした。

 

 

聴こえないことで、相手と分かりあえなかったり、自分の気持ちをうまく伝えられなったりする現実をどう受け入れて困難に立ち向かっていったのか。

生きていく中で、相手を打ち負かそうとせず、自分のすべき仕事を淡々と続けるという戦いをしてきた祖父。

悲しみや理不尽さと向き合いながらも、一歩ずつやるべきことをやってきた祖父の正一の物語は感動的でした。

聴覚障害や手話についても知らないことがたくさんあって、とても勉強になりました。

手話は、落語や講談のように登場人物を演じわけて画面を再現するため表現力が問われ、脳内のイメージを目の前に浮かびあがらせる言語であるということ。

さらに「食べる」という動きでも食べるものによって動きが異なったり、同じ手話でも地域や世代によって差があるということは全く知らなかったです。

 

 

また、ろう者の権利についても、財産に関する法律行為の対象から外されて家業を継げなかったり、結婚や出産、子育ても自分の意志で決められなかったりと、今では考えられないくらいの差別があったことも初めて知りました。

本書で描かれているヘレン・ケラーの講演会も素晴らしかったので、以下に本文から抜粋します。

「私たちは人になにかを伝えたり、意思をつなぐのにも骨が折れます。しかし忍耐力を以って継続していけば、なにかの弾みで変わるかもしれない。はじめは難しいことも、つづけていけば必ずできるようになりますからね。たとえ今、あながが成し遂げられなくとも、別の人がつないでくれると信じてください。
それに、目の前に壁が立ちはだかっているように見えても、じつは思い込みにすぎない場合もあります。本当は壁なんてないのに、ただ自分が怖がっているだけではないか、と胸に問うてください」

 

 

このヘレン・ケラーの言葉にあるように、ろう者の理髪科設置についても、最初にろう教育をはじめた人、それを徳島に持ち帰った人、ろう教育を公立にした人、校舎を作った人、理髪科を立ちあげた人、理髪科で教えた人、そして自分の店を持って理髪業を営んだ正一。

みんなが時を超えて、聴こえない子どもたちのためにやるべきことを信じて戦ってきた人たちが一人ずつバトンを渡して、それがつながって今があるという言葉は胸に響きました。

聴覚障害の関係者だけでなく、多くの人におすすめしたい一冊でした。

 


音のない理髪店

知的戦闘力を高める 独学の技法

知的戦闘力を高める 独学の技法
山口周 (著)


昔は限られた人間が教会の図書館に収蔵されている書籍から「知識」を得ていたのが、今は誰でも情報にアクセスできる時代です。

そんな時代にどう学んでいくのか、独学のヒントが詰まった一冊でした。

 

 

ところどころに引用されている著名人の言葉が的を得ているとともに、これだけ多くの言葉を引用できる著者のストックもものすごいと思いました。

多くの本では、キャリアプランや目的に沿って逆算して学ぶことを推奨している中、本書ではスタンフォード大学の教育学・心理学教授のジョン・クランボルツの調査結果を引用し、キャリアの8割は本人も予想しなかった偶発的な出来事によって形成されていることを説明していました。

キャリアの目標を明確化して興味の対象を限定してしまうことによる弊害が述べられていてとても勉強になりました。

 

 

また、自分にとって共感できる、賛成できるという心地よいインプットばかり積み重ねると、同質性の高い意見や論考ばかりに触れて偏った考え方になってしまうということも理解できました。

同質性の高い人たちが集まると意思決定のクオリティが著しく低下する研究も紹介されており、自分が反感や嫌悪感をも意見も大事であることがよく分かります。

これはSNSで同じような意見のユーザをフォローしたり、同じ意見ばかり見聞きするエコーチェンバー現象とも同じ考えだと思います。

本書の終盤には、歴史、経済学、哲学、経営学、心理学、音楽、脳科学、文学、詩、宗教、自然科学のそれぞれの分野で著者がおすすめする本が紹介されていました。

 

 

他にも参考になった内容を以下に抜粋。

・信じて丸呑みするためにも読むな。話題や議題を見つけるためにも読むな。しかし、熟考し熟慮するために読むがよい

・「問い」がないところに「学び」はない。極論すれば、私たちは新しい「問い」を作るためにこそ独学しいているわけで、独学の目的は新しい「知」を得るよりも、新しい「問い」を得るためだといってもいいほどである

 


知的戦闘力を高める 独学の技法 (日経ビジネス人文庫)

人生百年時代の生き方の教科書

人生百年時代の生き方の教科書
藤尾秀昭 (監修)


人生100年時代の後半、75歳以上の時代をどういった心構えで過ごしていけばよいか、の知恵が詰まっていた一冊です。

忍耐・覚悟が大事、何が起こっても文句を言わず受け入れる、感謝して喜びながら生きていく、生涯現役・生涯修業、他人がどう思うかではなく自分がどう生きたか、真心を尽くすなど、どんなときでも絶望せず生き抜いてきた方々ならではの教訓が満載で勉強になりました。

 

 

特に印象に残った言葉を以下に抜粋します。

・佐藤愛子(作家)

われわれは何かにつけて、取るに足らないことで愚痴をこぼしたり、泣いたりしがちですけどね、そういう時に「上機嫌」というのを義務の第一義に置くと、生きていく力が出るんじゃないかと思うんです

・五木寛之(作家)

朝顔の花が咲くには、朝の光に当たる前に、夜の冷気と闇に包まれる時間が不可欠なんです。人間も同じで、明るい所で光を見ても、その明るさは感じにくい。闇の中で光を見るからこそ、それを光明と感じて感動し、生きる意欲も生まれてくるのです

 

 

・田中真澄(社会教育家)

商売というのは簡単なんだよ。太陽のように生きればいいんだ。太陽は二つのものを人に与えてくれる。一つは熱。熱意を持って人に接すれば、その熱は自然と相手に伝わる。もう一つは光。光を与えて相手を照らし、関心を持ってその人の存在を認めてあげることが大事なんだ

 


人生百年時代の生き方の教科書

縮んで勝つ: 人口減少日本の活路

縮んで勝つ: 人口減少日本の活路
河合 雅司 (著)


以前にご紹介した「未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起きること」を読んで、その後に興味があったので本書も読んでみました。

ブログ:未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起きること
https://nishigahara4-harikyu.com/blog/future-chronology-big-change-industry


「未来の年表」では、人口減少が各業界にどんな影響を与えるのかが中心に描かれていました。

本書では、前半は日本の人口が減少することでどんなことが起こるのか、最新の人口統計や出生率を元に改めて記載されていて、未来の年表を読んでいない人向けの振り返りになっていました。

また、高齢者に色々な負担増を求めながら、貧困に苦しむ就職氷河期世代、つまり将来の高齢者をどう支援するか、その財源をどこから確保するかという2040年問題の話が新たに語られていました。

 

 

後半の人口減少にどう対応するかについては、本書で述べられている内容でも難しいと感じました。

「外国人依存からの脱却」は、現在の人手不足問題を解消する手段として外国人雇用は外せない選択ですし、円安で日本に来る観光客が増えれば、その中の外国人が日本に住みたいと考える可能性もあるので難しそうだと思います。

女性を「安い労働力」から「戦力に」というのも、ますます少子化に拍車がかかりそうです。いかに子どもを産みたい、育てたいと思わせるか、それに皆で協力するか、そのアイディアを出す必要があると思います。大家族化の促進を促したり、引退した高齢者を活用したり、子育てしやすい環境づくりも重要だと考えています。

 

 

「従業員一人あたりの利益を高める」は、企業や経営者がどの従業員にどんな能力やスキルを身につけてもらうか具体的なリスキリング内容を業務として命令すると書かれていましたが、現状大企業で行われている黒字リストラのように40代、50代を切り捨てるような企業文化では難しいのではないでしょうか。

それよりも、企業に依存するのではなく、昔ながらの商いを個人または少数で協力して行い、継続してビジネスを続けるスタイルの方がよいと思います。

 

 

素人考えですが、個人や小規模の農家、漁業、肉屋、魚屋、豆腐屋などの食糧系、水道、電気、ガスの修理、交換などのインフラサービス系、個人経営のクリニック、歯科、薬局などの医療系など、小さい形ですがリストラや定年、減給の心配をしないですむ小規模な個人店を増やす方がよいと考えています。なぜなら、昔の人口が少ない時代はそうしていたからです。特に食糧自給率を上げるのは最優先です。
これにITやAIなどを使って効率化や機械化をどう組み合わせていくのかがこれからの課題だと思います。

人口減少が止められない社会をどう生きるか、何をするべきか。政府だけに任せるのではなく、現状維持バイアスに縛られず個々人で考えるきっかけになる書籍だと思うので、多くの人に読んでいただきたい内容でした。

 


縮んで勝つ ~人口減少日本の活路~(小学館新書)