仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ

仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ(ポプラ社)
川上徹也

 

出版取次の会社に就職した新入社員の大森理香が、転勤先の大阪で出会った小さな本屋さんとの触れ合いを通して成長していく物語です。

 

 

本書に登場する小さな本屋さんの「小林書店」は実際に存在するお店で、小林由美子さんが話したエピソードも実際にあったノンフィクション。

そこに出版取次の社員を絡めながら、仕事で大切な姿勢や考え方を学んでいく展開で読みやすかったです。

阪神・淡路大震災で被災した本屋を復旧しようとして始めた傘売りをした話が紹介されていましたが、副業としてではなく本業の一つになるくらい一生懸命に売り尽くすという信念が素晴らしかったです。

 

 

小林さんは、傘を売るときにこんな説明書きをしていたそうです。

傘は愛情です。
あなたが冷たい雨に濡れないように、
あなたが暑い日差しに疲れないように。
考えて考えて作られたこの一本。
傘は愛情だとつくづく思います。

 

 

また、小さな本屋さんが生き残るためにした様々な工夫や、人との繋がり、あなたのお店で買いたいと思わせるような熱意や優しさは勉強になりました。

実話として泥棒に入られた話があるのですが、お店を大切に思うお客さんの温かい優しさが伝わってきました。

 

 

由美子さんのご主人の口癖も商売をやる身としては、素直に感心できます。

特に好きな1つを以下に抜粋しました。

「世の中、こんだけたくさんの本屋があるんやで。うちらが商売できているのは、買ってくれるお客さんあってのことや。それやったら、何べんでも何べんでも何べんでもありがとうございます!と頭下げて言い続けることや。どれだけ感謝しても感謝しすぎることはないで」

 

 

こんなご時勢だからこそ、どんな心構えで仕事をするのか、改めて考えさせられる一冊でした。

 

父と娘の認知症日記

父と娘の認知症日記 : 認知症専門医の父・長谷川和夫が教えてくれたこと(中央法規)
長谷川和夫・南高まり

以前に、ブログで長谷川先生の著著「ボクはやっと認知症のことがわかった」を紹介しました。

ボクはやっと認知症のことがわかった

前作は、認知症となった長谷川先生が「認知症の方への接し方を多くの方に知ってほしい」という想いから、自ら認知症になったことを公表したものでしたが、本書ではそんな長谷川先生のお世話をする長女のまりさんの視点から書かれています。

 

 

内容は、認知症がどんなものなのかを知ったり、どう介護したらよいかを知るための本ではなく、長谷川先生がどんな人物だったのか、認知症になった長谷川先生がどんな生活を送っているのか、どんなことに困っているのかなど、実生活での体験が中心です。

本書の前半は、長谷川先生が医者になった1960年代から2000年代までどんな活動をして来られたのか、家族とはどんな風に接していたのかが紹介されています。

 

 

中盤以降は、「認知症」と診断された後の長谷川先生の様子がまりさんの視点で描かれていて、コロナ禍での過ごし方や、奥様と一緒に有料老人ホームに入居された話も掲載されています。

認知症になった後も「人様の役に立ちたい」という思いから、メディアの取材も断らず、認知症患者としてのご自身の状態や、地域との関わり方などが穏やかな言葉で語られていました。

 

 

認知症を抱えながらも、桜を見て喜んだり、コーヒーをおいしそうに味わったり、好きなタンタン麺を食べたりと穏やかな日常を送る姿に勇気付けられると共に、長年連れ添ってきた奥様を大事にする姿が素晴らしいと思いました。

本の背表紙に長谷川先生の自筆のメッセージが書かれているのですが、これが力強くて印象的でした。

「生きている限り生きぬきたい 生かされるのではなく自分の意志で生きたい」

 

他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。

他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。#なんで僕に聞くんだろう。(幻冬舎)
幡野広志

以前にブログで紹介した「なんで僕に聞くんだろう。」の第二弾です。

なんで僕に聞くんだろう。

前作に続いて、切れ味が鋭い考察の中に、相談者を思いやる気持ちが盛り込まれていて、とても勉強になりました。

「頑張る背中を少し押しただけで頑張るのは相談者さん」というスタンスを保ちながらも、相談者の気持ちに寄り添って、紡がれる言葉には優しさと厳しさが詰まっていたと思います。

 

「ハゲてないけど毛頭ありません」、「不安と答えのハッピーセット」、「神様は乗り越えられない試練は与えないというGOD-POP」、「頭の中が春の南房総」など、ユニークな言い回しも好きでした。

あとがきにある、「相談者の悩みを理解できなくても、思いやることは可能である」という言葉は特に印象に残っています。

 

そのほか、私が気に入った文章を以下に抜粋しました。

・今悩んでいる気持ちを忘れないように大切にして下さい。自分の過去の悩みをバカにすると、若い人の相談をバカにするダサいおじさんになっちゃうよ。悩んだ経験って人生の財産になるよ。

・親って不安で、子どもに失敗をしてほしくないのでしょうけど、その解決方法が子どもの失敗を先回りすることで、そのせいで子どもの失敗が回避され続けると、やっぱり失敗ができない大人になってしまうと思います。失敗を防ぐ最善の方法は挑戦しないことで、挑戦をしないで誰かに指示されたことに従うだけの大人になってしまいます。

 

・不安にさせて焦らせたときに答えを与えると、人をコントロールできるようになるの。それで大人が食べさせたいものを食べさせるような教育も簡単になる。不安と答えがおまけのハッピーセットみたいなものだよね。

・死ぬときまであなたが幸せに生きることが、相手を不幸にさせない最良の方法でしょう。ぼくは妻と息子を不幸にしたくないから、死ぬときまで幸せに生きるの。ぼくはぼくが死んだあとに、妻と息子が時間をかけてゆっくりと悲しんだら、あとはおもいだし笑いをしてほしいんですよね。

心のスイッチ

「心に響く小さな5つの物語Ⅲ」(藤尾秀昭 著)という本の中に出てきた東井義雄さんの「心のスイッチ」という詩の内容が心に響いたので、紹介いたします。

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人間の目は ふしぎな目
見ようという心がなかったら
見ていても見えない

人間の耳は ふしぎな耳
聞こうという心がなかったら
聞いていても 聞こえない

頭もそうだ
はじめからよい頭
わるい頭の
区別があるのではないようだ
「よし やるぞ!」と心のスイッチがはいると
頭も すばらしい はたらきを しはじめる

心のスイッチが
人間をつまらなくもするし
すばらしくもしていく
電灯のスイッチが
家の中を明るくもし
暗くもするように
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「よし やるぞ!」という心のスイッチの働きで、頭や体の働きや、人間性も変わってくるということですね。

「心のスイッチ」は誰かに入れてもらうのではなく、自分で入れることが大事なのだと思います。

私も心のスイッチをONにして、仕事に励んでいきたいです。

善医の罪

善医の罪(文藝春秋)
久坂部羊

家族も同意したはずの尊厳死が、嫉妬や保身、曖昧な記録から殺人罪として告発されることになるまでを描いたリアルな医療小説です。

善良な医師がどんなに誠実な対応をしても、学歴や待遇で嫉妬する周囲の人間に足を引っ張られる話の好例だと思いました。

事の発端は、白石ルネというオランダ人とのハーフである一人の医師に嫉妬した、医師と看護師が白石の弱みを握ろうとしたことから始まります。

そこから様々な思惑が入り混じって醜い争いに発展していきます。

ある医師は自らの出世欲に駆られ病院を脅迫し、

病院長は自らの保身に走り、

看護師は嘘の指示をでっちあげ、

遺族は安楽死の告発を鵜呑みにして大金をせしめようとし、

週刊誌の記者は世論を煽って事実を捻じ曲げて伝える。

それぞれの関係者が自らの利益のためだけに動いた結果、誠実に対応した医師が起訴される事態となると、現場の医師が救急蘇生をしなくなる事態も考えられるという難しいテーマが内包されていました。

自分がした医療行為の正当性と患者や遺族を信じ続けるお人好しの白石医師の想いが切なかったです。

誠実な医療とは何なのか、患者のための医療とは何なのかを考えさせられる小説でした。