僕のこころを病名で呼ばないで

僕のこころを病名で呼ばないで(日本評論社)
青木省三

病気のこと、子どものこと、周囲のかかわり方について、分かりやすい言葉で、丁寧に語りかけてくるような優しさが感じられる良書でした。

病気と健康は二者択一ではなく、グレーゾーンがあって、どちらも併せて持つのが人間。

診断名や病名という枠組みを通してみるだけでなく、その陰に隠れて見えなくなっているその人自身の悩みや苦しみや喜びにきちんと向き合うことが大切だ、という姿勢には非常に共感できました。

誰かに助けてもらったことに感謝しつつも、クライエントが自分自身の力で乗り越えた実感をきちんと残していく「ほどよい支持」という考え方も好きでした。

本書で紹介されていた、イギリスの小児科医ウィニコット氏の「ほどよい母親」という概念が勉強になったので紹介します。

子どもは愛情を注がれることによって成長するが、まったく困らないほどに愛情に満たされたのでは子供の成長を妨げてしまう。
子どもはいくらかの不足や不自由があってこそ成長する。
もちろん愛情が甚だしく不足しては成長を妨げてしまう。
「過不足のない愛情」というのが大事である。

ドナルド・ウィニコット(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%83%E3%83%88#%E3%81%BB%E3%81%A9%E3%82%88%E3%81%84%E6%AF%8D%E8%A6%AA

この「ほどよさ」というのは治療や介護でも、重要な考え方だと思います。

本書では主に子どもや青年のことに対して描かれていますが、大人にも十分に励ましや示唆を得られる内容になっていると思います。

緩和医療と心の治癒力

緩和医療と心の治癒力 (築地書館)
黒丸尊治

ただ黙って穏やかに死を迎えるというイメージの緩和医療の現場において、

代替療法にすがる患者さん
治療的な関わりを希望する患者さん
痛みをとって安らぎを求める患者さん

など、様々な患者さんとの触れ合いや想い受け止め、医療者としてどう考え、どう向きあってきたのかが真摯に語られていた良書です。

余命宣告された患者さんは、現実を受け入れることは難しく、死と向き合うことができない。

そんな中でも、苦痛や苦悩を少しでも和らげることができれば、信頼感や安心感が生まれていく。

そして、何か心地よいと感じることに意識が向いてゆったりした時間を過ごす中で、余計なこだわりがなくなって穏やかに過ごすことができるのではないか、という黒丸先生の考え方に共感できました。

リラックス系の代替医療や治療系代替医療なども多く紹介されていて勉強になりました。

治癒や自然寛解だけが希望なのではなく、いかに穏やかに最後を迎えることができるのか、そのためにどうやって心の治癒力を働かせるのか、学びが多い一冊でした。

13歳のハローワーク

13歳のハローワーク(幻冬舎)
村上龍

世の中にはどんな仕事があるのか。

子どもの好奇心を基準にして、自分の好きな仕事、自分に向いていそうな仕事を探すことができる本です。

13歳という、大人の世界の入り口の年齢だからこそ、仕事を通して世界を感じたり、考えたりしてみる。

将来、何をしたらよいか分からないという学生がどんな仕事があるか考えて色々調べたりするのに最適だと思います。

本書は2003年11月30日に発行されています。

本書の終盤の「P.S.明日のための予習」には、働き方の選択肢(正社員、派遣社員、起業など)やIT関係の仕事(システムエンジニア、プログラマー)の話が紹介されていますが、今ではそれが現実になっています。

さらに、アマゾンや楽天などのネットショップ、メルカリやヤフオクなどの個人出店のネット販売、FaceBookやインスタグラムなどのSNS、スマートフォン、電子マネー、ユーチューバー、個人で配送を行うウーバーイーツなど、新たな仕事や産業も誕生しています。

今後は自動運転や自動翻訳、介護ロボットなど、新しい仕事が生まれるとともに、なくなっていく仕事もあると思います。

「学生の時点で、どんな仕事をしたいのか、自分にはどんな仕事が向いているのか」は簡単には見つかりません。

それでも、どんな仕事があるのか、どんな働き方があるのかを知っておくのは、決して無駄にはならないと思います。

私自身、高校生の時はガソリンスタンド、専門学校の時は居酒屋の厨房でアルバイトをしていました。

その後、IT企業に就職してシステムエンジニアの仕事を12年半やりました。

今は、システムエンジニアの仕事はやめて、鍼灸マッサージの仕事をしています。

10年後はどうなっているかは分かりません。

世の中の動向に目を向けて、自分がやりたいこと、やってみたいことを考え続ける必要があると思っています。

本書は、仕事について考えるきっかけになる一冊だと思いますので、学生におすすめしたいです。

銀の猫

銀の猫 (文春文庫)
朝井 まかて

江戸時代の介抱人、今でいう介護の仕事に奮闘する女性お咲の日常を描いた物語です。

江戸時代は、短命と言いながらも、江戸では70代、80代まで生きる人も多かったらしく、家を継ぐ長男が親の介抱に当たるというのが当然という時代だったそうです。

それでも様々な事情があってどうしても長男や家族だけで見ることができない場合に介抱人に依頼します。

身体を拭いたり着替えや薬を飲むのを手伝ったり、下の世話をしたりと、行っていることは今の介護と同じです。

ただ、本書で描かれている介抱人は、3日泊りで介抱して1日休みという相当にハードな仕事で、その分、女中奉公よりも稼ぎが良いというものでした。

自分たちの目の届く範囲でほどほどに楽しんで、たまには孫の面倒を見ながら穏やかに機嫌よく過ごしてくれたら言うことはない。

これは現代においても誰もが皆、老いた親に対して抱く願いだと思いますが、江戸時代ならではの話やその難しさ、それぞれの思惑が入り混じって読み応えがありました。

Wonder

Wonder(ほるぷ出版)
R・J・パラシオ 訳 中井はるの

どこに行ってもじろじろ見られ、恐れられ、不気味がられるオーガスト。そんなオーガストが学校に飛び込んで繰り広げられる話は勇気、愛、友情、冒険、感動、人間性など多くのテーマが盛りだくさんの一冊でした。

オーガストに優しくない世界の中で、一途な愛情を注ぎ続ける両親、弟を愛しながらも葛藤し続ける姉、他の友達を失ってでも一緒にいる友人に支えられながら成長していくオーガストの姿に胸が熱くなりました。

差別、いじめといった暗く悲しい物語の中にも、オギー両親の愛情、ブラウン先生の格言、トゥシュマン校長の言葉、など多くの優しさに包まれた物語でした。

以下、私が好きだった言葉を抜粋しました。

ブラウン先生の九月の格言
「正しいことをするか、親切なことをするか、どちらかを選ぶときには、親切を選べ」

トゥシュマン校長先生の修了式のあいさつの中の一文
「人生の新しい規則を作ろうか・・・いつも、必要だと思うより、少しだけ余分に人に親切にしてみよう」

オギーがママに、ぼくはこれからずっとああいう意地悪なヤツのことを心配しなきゃならないの?と聞いたときのママの言葉。
「いつどこにでも意地悪な人っているのよ。だけど、ママが信じてるのは、それからパパも信じているのは、この地球上には、悪い人よりもいい人のほうが多いってこと。いい人たちが、おたがいに見守ったり助け合ったりしているの」

Wonderの続編の「もうひとつのWonder」も出版されており、オギーと関わりがあった3人のふつうの子の視点から描かれたもうひとつのWonderの世界が楽しめます。

ふつうの子たちが抱える友達付き合い、親との確執、思いやりといった苦悩が丁寧に描かれるとともに、人に親切にすること、人の気持ちを考えることの重要性をどう学んでいくのか、オギーとの出会いによってふつうの子たちにどのような変化が起こったのかを興味深く読みました。

小学校高学年から高校生におすすめの一冊です。