19番目のカルテ 徳重晃の問診(7)

19番目のカルテ 徳重晃の問診【7】(ゼノンコミックス)
富士屋カツヒト 、 川下剛史

なんでも治せるお医者さんを目指して奮闘する医師の物語の第七巻です。

第七巻では、「ヤングケアラー」の話が印象的でした。

熱中症で倒れた19歳の岡崎さん。

熱中症が回復したあとも覇気がなく燃え尽きてしまったような状態の岡崎さんに対して、総合診療医の徳重先生がゆっくりと話を聴いていきます。

14歳の時に生まれた年の離れた弟は、先天異常症候群で生まれつき複数の内臓に異常が見られました。

 

 

家は事業の失敗で借金があり、父も母も働きづめで家にいないことが多く、幼い弟の世話をする日々が続きます。

2歳になると弟の病状も安定してきたのですが、岡崎さんが高校二年生の時、また弟の病状が悪化してしまいます。

面倒を見るため高校を休む日々が続き、高校に通えなくなり退学。

その後、母親も怪しい治療にはまり、家を出て行ってしまいます。

弟の病状はよくならず、そのまま亡くなってしまうのですが、弟が亡くなってホっとしている自分がひどい人間だと考えてしまうようになりました。

そんな岡崎さんに対して、燃え尽き症候群と判断した徳重先生。

 

 

元気になってもらうため、月に1、2回の通院をすすめ、色々なお話をしながら岡崎さん自身がやり遂げた事柄を思い出してもらうよう働きかけます。

話をしながら小さな成功体験を積み上げることで、再び自分自身を取り戻していくことをお手伝いする。

その後、岡崎さんが自分でやりたい仕事を見つけて前向きな気持ちになっていきました。

さて、今回徳重先生がやっていたことは、心療内科のカウンセリングのようなことだと思います。

本書では、岡崎さんが前向きになっていく経過は描かれていませんでしたが、このような働きかけはとても大切だと思います。

ただ、忙しくて時間のない医師が通常の診察ではここまで話を聴くのは難しいと感じました。

私がやっている鍼灸マッサージでは、一人ひとりの患者さんとゆっくり向き合えるので、患者さんが元気になったり、前向きになったりする働きかけは常に意識したいと思いました。

 

 

そのほかにも、腰痛と吐き気で受診した30代の患者さんの話も勉強になりました。

受診している間に右のお腹の奥も痛くなってきますが、腰痛は楽になっているようです。

そのほかに微熱もありますが、上気道感染もなく腹膜炎の兆候も見られないし、整形外科の検査でも異常なし。

診察が長引いたため痛み止めをもらって帰りたがる患者さんですが、それでも何か違和感がある。

何か見落としがあるのではないかと諦めきれず色々話を聴いていく中で、ようやく一つのヒントを見つけ出していく話です。

 

 

これとは違うケースですが、私も先日ちょっと気になる腰痛患者さんがいらっしゃいました。

1か月前からの腰痛がだんだん酷くなり、イスに座っていても右腰がチクチクする。

横になるのもうつ伏せ以外は寝ていられず、立ち座りのたびに腰が痛いが、一度歩き始めれば少し楽になる。

立った状態で後屈はできるが、前に屈んだり、左右に動かすことはほぼできない。

患部(痛む場所)を軽く触れただけでも激痛。

何となくいや感じがあったので、軽めの施術と、立ち座りやベッドからの起き上がり方、体の動かし方の助言に留め、整形外科の受診をすすめました。

数日後、再び患者さんがいらっしゃり、当院のあとに整形外科を受診したらレントゲンも特に問題なく、今は腰痛が半分以下になったということでした。

結果的に問題はなかったようですが、自分自身で分からないこと、何か気になることがあればそれを放置せず必要な対処を考える(今回のケースでは整形外科の受診をすすめる)ことの重要性を改めて認識した出来事でした。

 

精神科医の本音

精神科医の本音 (SB新書)
益田 裕介 (著)

現在の精神科医療の実情について、率直に語られていて分かりやすかったです。

益田先生が作成している、精神科の実態を知ってもらったり精神疾患を解説したり、心理教育の補助を行う目的に作られたYoutubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」の取り組みも、精神疾患を知る有用なものだと思います。

 

 

本書では、採血や画像診断のような検査もなく、ただの会話を元に診断をする精神科医療において、どんなふうに診察しているのか、外来以外の治療手段はあるのか、医師の選び方、医療体制や経営の話など、様々な側面から精神科医療のことが説明されていました。

また、経済的な問題や労働の複雑化などの社会的な問題から精神科の患者さんが作られてしまう側面もあるという話も説得力がありました。

経済的問題では、貧困やシングルマザー、ヤングケアラーではどうしても負担が大きくなる人が増え精神に不調をきたしやすくなる。

労働問題では、仕事内容の高度化、複雑化で、社会から単純な仕事が減り、向かない仕事にでも従事せざるをえない労働環境が増えていることで、発達障害や適応障害の患者が増える。

精神疾患は個人の問題だけでなく、社会とも深く関わっており、精神疾患の患者数は今後も増えるというのはその通りだと思いました。

 

 

印象に残っている内容を以下に抜粋しました。

・多くの人が「治療」という言葉から連想するのは「元の状態に戻る」ということだが、精神科医療で扱う病気の場合、「受け入れる」や「共存する」のイメージの方が近い。だから、即効性のある薬物治療だけを治療だと思うと、面食らってしまう。治療が長期にわたることもあるので、通院のたびに、「患者さんに病気や自分、心というものについて学んでもらう」ことを続けるのが精神科医療の治療になる

・精神科を受診する目安として、以下のようなものがある
「食事が採れているか?」、「眠れているか?」、「動悸がしたり、涙が出たりしていないか?」、「残業時間の多さ」、「死にたい気持ちがあるか?」

 

 

ただ、正直疑問に思うところもありました。

再診が5分しか見ないのは診療報酬制度の問題とありますが、それは精神科だけの話ではなく、どの科も同じようだと思うのでやり方も工夫できるのではないかと思いました。

また、経済的、社会的豊かさも精神疾患の増加の一因だと思います。

高度経済成長期では、食うために働く、より豊かな生活のために働くという時代で、この時代では現在よりも精神疾患の患者さんは少なかったと考えています。モノが行き渡り食べるものに困らなくなったからこそ、逆に生きにくさに苦しむ人が増えているという現実があるのかもしれません。

 

 

さらに、気軽に精神科を受診できることも精神疾患の患者を増やしている一因だと感じますが、このあたりはとても難しい問題だと思います。

精神科や精神疾患について、色々なことを考えさせられる一冊でした。

 

19番目のカルテ 徳重晃の問診(6)

19番目のカルテ 徳重晃の問診【6】(ゼノンコミックス)
富士屋カツヒト 、 川下剛史

なんでも治せるお医者さんを目指して奮闘する医師の物語の第六巻です。

第六巻では、「訪問診療と看取り」がテーマだったと思います。

 

 

そもそも「訪問診療」とは何か。

実は「往診」と混在してしまうのですが、少し意味が違います。

以下、本文から引用です。

——————————————————————————————————————————

訪問診療とは、突発的な要請で診察を行う「往診」とは違い、病院への通院が困難な患者さんに対して医師が診療計画などを立て1~2週間に1回、定期的に自宅へ伺い診療行為を行うサービスのことです。

訪問前には必ず患者・家族・主治医に加え、ケアマネージャー、訪問看護師などで事前ミーティングを行います。

これまでの病歴、受けてこられた治療、訪問診療が導入となった背景、また家族の介護力や経済的な事情など様々な情報収集をします。

これらを基に、診療計画や訪問スケジュールを立て、やっと実際に訪問診療が始められます。

 

——————————————————————————————————————————


さて、実際の訪問診療ですが、事前情報だけでなく、「病院ではみられないものを診ることが大事」という話が印象的でした。

例えば、患者さんが普段いるベッドからトイレまでの道筋だったり、小さいお孫さんが頻繁に訪ねてきたりといったことです。

今回は歩行困難となり自宅でも頻回に転倒するようになった患者さんの訪問診療を行うのですが、ちょっとしたお菓子のゴミを見つけたことが問題解決に繋がっていきます。

 

 

また別のケースでは、肺癌がステージⅣまで進行し、化学療法も効果が見られず本人も積極的な治療を望んでいない76歳の男性患者さんの話もありました。

家族共々在宅ケアを望んでいますが、治療を望まない長男と、治療を続けたい次男の意見が対立します。

お母さんの死に目に何もできなかったことを後悔している次男に医師としてどう寄り添っていくか、患者さん本人はどんな気持ちでいるかを丁寧に聴きながら対応していました。

このケースでは、実際に家族が集まっている場面で患者さん本人の気持ちを聞く場面がありましたが、家族がいると気を遣ってしまって本当に気持ちを言うことができないこともあると思うので、どう対応していくのか難しいと感じました。

 

 

また死期が迫っていることを見通して、会える時に親しい人たちと会っておくという判断をしたことも、とても大事だと思いました。

本人や家族が納得できる最期を迎えるためにどうするか、正解も間違いもなく、自分たちに何ができるか考えることをやめず、それぞれが思う最善の仕事をする。

そんな医師の言葉が心に響きました。

私も訪問で鍼灸マッサージを行っているので、自分に何ができるか考え続け、できる最善の仕事をしたいと思いました。

 

 

いつまでも消えない「痛み」の正体

今回は、『いつまでも消えない「痛み」の正体』という本を紹介いたします。

いつまでも消えない「痛み」の正体
牛田享宏 著

 

日本人のおよそ5人に1人は3ヶ月以上痛みが続く慢性疼痛を抱えており、医学的に十分に対処しきれていない理由を説明するとともに、長引く痛みとどう向き合っていくのかを伝える良書でした。

痛みというのは主観的なもので、ちょっとした怪我でも強い痛みを感じる人がいればほとんど痛みを感じない人もいて、個人差がかなり大きいものです。

 

 

2020年に40年ぶりに国際疼痛学会の痛みの定義が改定され、以下のように定義されました。

「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」

これは組織損傷がなくても、不快な感情やそれにつながる体験も痛みになることを示しており、脳に刻まれた記憶から痛みを感じることも様々な実験結果を元に説明されていました。

 

 

ではどうすれば慢性疼痛を克服できるかですが、まだこれといった対処は見つかっておらず、こんなことをしていくとよさそうだという内容になっていました。

 

・痛みをゼロにしようと考えず、痛みに意識を向けないよう心がける

・原因にこだわることをやめ、治らないかもしれないといったん受け入れてみる

・薬に頼ることを減らし、痛みがあってもできた体験を記録する

・運動することで、筋力がついて痛いところが守られたり、脳内モルヒネが分泌されて痛みを感じにくくなる

 

これは患者さんだけでやるのではなく、医療従事者がしっかりと話を聴いて、身体面だけでなく、精神的にも社会的にも患者さんをサポートしていく医療が広まるとよいと思います。

現在は著者がセンター長をしている愛知県の疼痛緩和外科・いたみセンターで慢性疼痛の治療が行われているようですが、こういった取り組みが全国に広がって慢性疼痛の治療が少しでも前進すればいいなと思いました。

 

 

医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと

医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと(自由国民社)
森田 豊 (著)

認知症のお母様と長年向き合ってきた現役医師が、ご自身の経験からの反省と伝えたいことをまとめた一冊です。

最近ちょっと変だけど、病気じゃないし元気がないわけでもないし、嫌がるものを無理に検査を受けさせる必要はないだろう。

医師である森田先生が考えたようなことは、おそらく誰もが考えることだと思いますが、この認識が認知症という病気を進行させてしまうということがよく分かりました。

 

 

認知症の検査を受けさせるための言葉として、

「僕のために検査を受けてください」

という言葉は、本当にお母さんのことを心配に思っていて、安心した生活を送ってもらいたいという気持ちが伝わってきました。

ただ、医師である森田先生がお母さんの認知症に気付けなかった後悔が繰り返し書かれているのが、少々くどかったです。

 

 

それよりも、介護のプロに聞いた話がとても有用でした。

・一人ひとりの生活歴、これまでどのような人生を送り、何を大事にしてきたか、その方の人生の芯となる部分を把握しておくことが重要で、それを知っていると接し方に大きな違いが出てくる

・あれはダメ、それは違うと否定するのではなく、話題をずらしたり、別の話をしてみたりと、怒らずに対処する

・認知機能が低下すると、これまでやってきたことが中途半端にしかできなくなって、家族が変わりにやることになり、その結果、患者さんの役割がなくなってしまいそれ自体がストレスになり、認知機能が低下するという悪循環になる。そのため、役割を持つことがとても重要

・対人接触による適度な刺激や緊張感は認知機能の活性化につながる

 

 

ちなみに、予防と対策の章は、他の書籍と同じように

・早期発見し軽度認知障害(MCI)の段階で対策や治療を行う

・セカンドオピニオンを求める

・人とのつながりや好きなことを見つける

など、一般的なことが書いてあり、目新しいことはなかったです。

認知症患者さんの家族の体験談や認知症にどう気付いていくか、どう接していくかなどを知りたい方にはよい一冊だと思いました。