人を動かす傾聴力

人を動かす傾聴力
林田康裕 (著)

傾聴というと「相手の話をとにかく聴くこと」と思われていますが、実際には話を聴いたあとで、いかに相手がしっかり聴いてもらえたかを実感できるかが重要であることがよく分かる内容でした。

「傾聴というのは、目の前の方との関係性をよりよくする手段であって、傾聴そのものが目的ではない。傾聴スキルよりも大切なのは『相手は何を求めているか』を考えること」

という考え方は分かりやすかったです。

 

 

相手の立場になって考えると、「それはどういうことですか?」、「なぜ○○なんですか?」、「もう少し詳しく聴かせてもらえませんか?」など、会話をより掘り下げていって、相手の思考が整理されたり、解決方法に気づく可能性もあるという話は納得できました。

傾聴しているつもりでも、勝手に決め付けたり、パターン化したり、相手をコントロールしようとしたり、といったことは無意識にやってしまっているので、気をつけたいです。

 

 

ほかにも印象に残った言葉を以下に抜粋しました。

・言葉は発した本人にもっとも作用する

伝える側は伝えたと思っても、相手に伝わっていないことが多い。
「伝える」よりも「話してもらう」のが大切。
話す側は、考えながら話し、そして自ら発した言葉が自らの耳を通して脳に届く。
その結果、話す側は「明確になる」「自分に気づく」「整理できる」「責任を持つ」が作用する。

・目の前の人は答えを求めていない

何か爪跡を残してやろうと考えていると、自分の出番待ちをしてしまう。でも、その爪跡は相手目線ではなく、自分目線によるもの。爪跡を残すことよりも、好印象を残すほうが今後の関係性が発展する

 

 


人を動かす傾聴力

19番目のカルテ 徳重晃の問診(9)

19番目のカルテ 徳重晃の問診【9】(ゼノンコミックス)
富士屋カツヒト 、 川下剛史

なんでも治せるお医者さんを目指して奮闘する医師の物語の第九巻です。

第九巻では、「誰かに頼ること」がテーマとなっていると感じました。

 

 

原因不明の体重減少、疲れやすさ、汗をかきやすいなどの症状に悩む20代の女性。

取引先でお世話になっている方の紹介で徳重先生の総合診療科を受診します。

無事に診断がついて一安心、徳重先生にお礼を伝えたところ、徳重先生は女性患者さん自身のおかげだと伝えます。

どういうことか。

自分の違和感を追求できたこと、周りの友人や取引先など違和感を伝えてくれる存在がいたこと、なによりそんな声を聞き入れる素直さを持ち合わせていたことがよかったのだと徳重先生は言います。

今の言葉でいうと、ヘルスリテラシーを高めるという言葉になりますが、自分自身や周囲の人の声をしっかり聞き、病状を判断するというのはとても大切な事だと思いました。

 

 

また、奥様が検査入院することになり、一人で1歳半のお子さんを見ることになった中年男性。

育児だけでなく、仕事や家事にも追われ、さらに奥様の入院が長引いて出口の見えない洞窟にいるような気分になって徐々に弱ってやつれていきます。

そんな中、徳重先生が男性にお子さんの小児健診をすすめ、お子さんがくる病という病気であることが判明します。

 

 

お子さんの病気に気付けなかったと責任を感じる男性に対して、小児科医が以下のようなことを伝えます。

・いつの時代も守る人間が増えると生活を維持するのは難しい

・あなたはすごくがんばっていて、ちょっと空回りしただけ

・昔ほど頼れる大人が少なくなってしまったけど、心当たりがあればどんどん頼っちゃえばいい

・育児相談ができる機関の紹介

・身体的にも精神的にも将来的にも、大人の余裕が子どもの余裕になる

実はこれは徳重先生が小児科医に伝えてほしいとお願いした言葉で、前向きに日々を戦っている人にとって、寄り添ってもらった気持ちになる言葉でした。


何かしらの生活苦や症状で困っているとき、誰かに話を聞いてもらったり、頼れる人に頼ったりする大切さがよく分かる内容でした。

 


19番目のカルテ 徳重晃の問診 9巻【特典イラスト付き】 (ゼノンコミックス)

カウンセリングを語る

カウンセリングを語る
河合 隼雄 (著)


本書の原版が刊行されたのは1985年で約40年前であり、現代ではカウンセリングの手法や考え方も大きな変化があると思いますが、本書に書かれているのは、カウンセリングの基本であり、普遍的なものであり、とても勉強になる内容でした。

「カウンセリングは植物を育てるのに似ている」という考え方は、河合先生の基本的なスタンスだと思います。

 

 

・木というのは十分な太陽と水と肥料と、そういうものが全部そろって自分で育ってくる。動物だとしつける、教えることをしなければならない。そうではなく、「育てる」ことに重点を置く。植物の種は条件さえ整えば自分からずっと育ってくる力も持っている。人間も同じで、種は持っているが、その子に十分な水と太陽と空気と栄養を与えなかったのではないかと考え、それを自分の力で出していく土に我々がなる

この考え方はとても共感できましたし、常に意識したいです。

 

 

・少しでも人の役に立ちたいという気持ちが前面に出すぎると決してよいことは起こらない。人間の心はそれほど単純でもわかりやすいものでもなく、他人の役に立つと思ってすることがかえって有害であることも多い

これも本当によくあることで、良かれと思って色々言葉かけをしたり、助けようとしてしまいます。

・カウンセリングはひたすら時を待つ商売

カウンセラーの仕事は何もしないことに全力をあげる人。自殺するかもしれない人を家まで送るよりも、自分で帰らせて何もせず待っている方がエネルギーがいる。この考え方も本当に勇気と胆力、クライアントを信じる力が必要であり奥深いです。

 

 

・カウンセラーはなぜ質問したくなるのか

自分の今までの考え、人生観、その中に早く位置づけたいから。下手な人ほど自分の考えで、生きたクライアントを殺して標本みたいに頭の中に入れてしまう。自分の意見や考えを押し付けず、ただ黙って聞く、受け入れることがいかに大変で難しいか。本書の中で繰り返し戒めていました。

また、安易に「こうしたらいい」ということは言わず、当事者が考え抜くこと、その人のことをどう考えるのかを大切にしていて、この問題が人生のどんな節目に来ているのかを一緒に考えていく姿勢も素晴らしいと思います。

ほかにも勉強になることはたくさんあり、行き詰った時や困難にぶち当たったときに読み直したい一冊でした。

 


カウンセリングを語る (角川ソフィア文庫)

現場から考える精神療法

現場から考える精神療法
村上伸治(著)


村上先生が経験した精神疾患の実例と、そのやりとりが丁寧に描かれていて非常に勉強になりました。

日常の挨拶、声かけ、距離のとり方、診察、問いかけ、許可や禁止など、直接的な治療行為とみなされないような行為においても、精神科医が臨床の場で患者に心理的影響を与えないでいることは不可能であり、だからこそ、それらの因子もうまく把握した上で精神療法を行う必要があるという考え方は共感できました。

 

 

それぞれの事例も分かりやすく紹介されていて、登校拒否の際に行ったことの説明も非常に分かりやすかったです。

・登校しようとする「頭」や周囲と、引きとめようとする「体」が壮絶なバトルを繰り広げていて、体側が劣勢になるとものすごい症状が次々に出現する。この「頭 vs 体」のバトルに親も参加することで、さらに修羅場となってしまう。だからこそまずは冷静な観察が必要で、どんな時に苦しいか、休日はどうか等を探りながら、本人には一緒に謎解きをする協力者になってもらう

そのほかにも、

・話を聴いてもらえたと思う工夫

・解決に向けて何かをしていると本人が感じるような介入

・相談するとよいことがあると理解してもらうための作戦会議

など、実際の臨床で使える細かい工夫も随所に紹介されていました。

 

 

治療がゆきづまったときに「おもしろくなってきた」、「逆転のチャンスだ」、「何か今までしてこなかった発想は?」とつぶやくことで、今まで固執していたものと違うやり方を考える『窮すれば通ず』の考え方は好きでした。

中井久夫先生の「医者ができる最大の処方は”希望”である」という言葉があり、ゆきづまりが希望になるという考え方を忘れずにいたいです。

 


現場から考える精神療法 うつ、統合失調症、そして発達障害

精神科医という仕事

精神科医という仕事: 日常臨床の精神療法
青木 省三 (著)


著者の40年の精神科臨床の経験で得た気付きが色々な視点から語られていて勉強になりました。

精神科医の仕事として、症状の把握や診断はとても大事ですが、適切な治療や支援を行うためには、症状の意味や役割を考え、その人の生活環境や生活史を理解することもとても大切であることが繰り返し述べられていて、考えることが多かったです。

治療には本人の変化を目指す精神療法や薬物療法によるアプローチと、環境を本人に合わせるアプローチがありますが、前者にばかり捉われて、後者の視点が抜けていることもあると思うので、気をつけたいです。

 

 

また、40年の経験をもつ著者でさえ、臨床の力が上達しているのか?と疑問に感じ、対処の道筋が見えてくるからこそ、その分診療がしんどくなったり新鮮な目や熱意が擦り減っていくというのは、悩み続けてきた精神科医だからこその考えだと思いました。


・「これが正しい」というのではなく、「こんなふうに考えられるかもしれない」と患者さんを理解する視点を増やしていく


・安易に「その気持ちわかりますよ」とか「大変でしたね」というのは支持にはならない。支持とは、相手の悩みや苦しみを想像することから始まり、治療者が安易に分かった気持ちにならないこと、分からないところから出発することが大切

 


優しい眼差しで悩みながら臨床を続けてきた著者の経験が語られている本書は、とても有益なものだと思います。

 


精神科医という仕事: 日常臨床の精神療法