小児科の先生が車椅子だったら

小児科の先生が車椅子だったら
熊谷 晋一郎 著


脳性麻痺の小児科医が、障害や依存について子どもでも分かるように解説していて読みやすかったです。

昔のリハビリ医療というのは「健常児に近づける」ものでしたが、脳性麻痺という治らないものを無理に治そうとするのでははなく、どうやったら生活しやすくなるか考えていくことの必要性がよく分かりました。

 

 

体のなかに障害があるという考え方のことを「医学モデル」、狭い通路や段差、階段など体の外に障害があるという考え方を「社会モデル」という二つの考え方があるという話。

医学モデルで障害をなくすには、手術やリハビリをするしかないけど、どんなに頑張っても人はそんなに変わらない。

だからこそ、建物や道具、道を変えていく社会モデルで障害を考える必要がある。

あなたの努力が足りない、もっと頑張らないとダメ、と言われ続けた熊谷先生の言葉はとても優しく説得力がありました。

 

 

また、女性で初めてノーベル経済学賞をとったオストロムという研究者が提唱した「コ・プロダクション」という言葉を知らなかったので勉強になりました。

これは、サービスを受ける側が、サービスの設計や運用に参加しなければうまく機能しないため、最初のデザインの段階からそれを受ける側、使う側の双方が関わる必要があるという考え方のことです。

本書の後半は、Chio通信という子どものことや社会のことを考えたエッセイの一部が紹介されていました。

障害に対する考え方や社会で起きている問題との向き合い方など、気付きになることが多い一冊でした。

 

 

患者さんが自宅で転倒した話

数ヶ月前に、私が訪問マッサージに伺っている90代の患者さんのお宅であった出来事です。

その日は私は休みだったのですが、患者さんの娘さんから電話がかかってきました。
(休みの日はお店の電話を携帯電話に転送しています)

「母が家で転んでしまいました。幸い頭を打ったり出血したりといったことはなく、救急車を呼ぶほどではなさそうなのですが、私一人では母を起こせないのです。申し訳ないのですが、もし来られたら助けていただけないでしょうか?」

 

 

実は、この患者さんは三ヶ月くらい前にも同じようなことがありました。

以前から家の中では歩行器を使っているのですが、紅茶を飲もうとしてちょっと移動しようとしたら、尻もちをついてしまったのです。

その時はちょうどヘルパーさんが来る日で、ヘルパーさんに助けてもらってイスに座らせることができました。

この話を私が施術中に聴いた時、患者さんから

「また家で転んでしまったりして起きられなくなったら、佐藤さんにも連絡して大丈夫ですか?」

と言われたので、

『大丈夫ですよ。その時の私の状況によって、すぐに行けるかは分かりませんが、連絡してもらうのは問題ないですよ』

と返答しました。

その後、家に帰ってから看護師の妻と、どうしたら負担が少なく体を起こせるか、ちょっと練習しました。

そして今回、まさに同じような出来事が起こりました。

 

 

『今、家にいますので、準備して15分後くらいに伺いますね』

患者さんの娘さんに返答して、患者さんのお宅に向かいました。

転んだ時の状況や、頭を打っていないか、手足を動かせるか、深呼吸して肋骨が痛くないか、脈拍は正常か、痛いところはどこか、などを確認し、動かしても問題なさそうだったので、患者さんの後ろに回り込んで体を起こしてイスに座ってもらいました。

イスに座って少し休憩したあと、軽く足踏みしたり、肩を動かしてもらいましたが、大丈夫そうでした。

その後、いつものダイニングテーブルまで歩行器で歩いてもらいましたが、転んだときにぶつけた腰とお尻がちょっと痛い程度で、問題なく歩けました。

 

 

念のため、訪問診療の先生とケアマネージャさんに連絡するよう伝えて私は帰りました。

後日、訪問マッサージに伺いましたが、転んだときにぶつけたところが痛いくらいで大きな問題はなく、訪問診療にいらした先生にも大丈夫と言われたとのことでした。

大きな怪我をしなくて本当によかったです。

こちらの患者さんは、訪問診療、訪問ヘルパー、訪問リハビリ、訪問マッサージをしながら、娘さんと一緒に暮らしています。

ちなみに、最近では夜中に転倒した時のことも考慮して、訪問看護のサービスも追加されることになりました。

色々な医療、介護サービスを利用していても、対応しきれないこともあります。

そんな時、周囲の色々な人たちがサポートしながら、自宅での生活を続けていけたらいいなと思いました。

 

 

「病は気から」を科学する

「病は気から」を科学する(講談社)
ジョー・マーチャント (著)、服部 由美 (翻訳)


実体のない非物質的な治療が、実際に物質的な効果を出しているという事実に対して、その信憑性や検証データを分析しながら考察した良書です。

 

・正直に伝えるプラセボ

・医師の説明や薬を飲むという儀式

・期待と条件付けの同時利用

・社会からの孤立が健康に害を及ぼすこと

 

などが、いくつかの検証結果を元に説明されていて、非常に興味深かったです。

 

 

特に期待と条件付けの同時利用は、薬の量を少なくすることができれば副反応や医療費を減らしつつ、薬の効果も持続できるという素晴らしいものでした。

しかし、薬の量を減らせるという研究に、自分たちの儲けが少なくなる製薬会社は資金を援助しないという現実的な問題もあるため、研究が進まないのが歯がゆいです。

「おわりに」にも書かれていますが、心だけに頼って病気を治せと言っているわけではなく、しかし、医学における心の役割を認めないのも正解とは言えません。

 

 

つまり、マインド・ボディに対する先入観を打開し、物理的な介入や薬への依存を強めるよりも健康対策に心を取り入れた方が、実はより科学的で、根拠に基づく治療法だと気付いてもらうことが重要だと思います。

検査、薬、手術といった物理的な手法と、プラセボを上手に利用した代替療法を組み合わせた手法。

その両方を組み合わせた患者のための医療システムが実現したら素晴らしいと思いました。

 

 

母のお酒をやめさせたい

母のお酒をやめさせたい
三森 みさ (著), 今成 知美 (監修), 松本 俊彦 (監修)


ギャンブル依存症、ゲーム依存症、薬物依存症、アルコール依存症など、各依存症に振り回されて家庭が崩壊していく様子をコミック形式で描いた良書です。

本書は子どもの目線で依存症に対して、依存症が病気であり治療が必要なこと、子どもには一切責任はないことが丁寧に描かれていて読みやすかったです。

 

 

また、ゲーム依存症については、居場所がない子どもが実際にゲームにはまって抜け出せなくなっていく様子がリアルに描かれていて、子どもにもぜひ読んでほしい内容でした。

著者の実体験を元に書かれた父親の宗教依存、本人のゲーム依存、母親の身勝手な娘依存はつらい境遇だったと思いますが、なんとか命を繋ぎとめて「がんばりたい」と思うものに出会えたのは本当によかったと思います。

 

 

以下、特に大事だと思ったポイントを抜粋しました。

・依存症の治療の流れ
 ①相談する(保健所、精神保健福祉センター、専門医療機関、自助グループ)
 ②治療をする(正しい知識を身に付け、投薬、認知行動療法、心理療法)
 ③生活を整える(ストレスを健康的に乗り切る方法を覚える)
→依存行為を使わずに健康的に生活できるようになることを回復と呼ぶ

・必要なのはゲーム以外にも居場所を作ること。自分をケアする手段を増やすこと。
 ①つらい時や苦しいときに頼るところ(大人、友達、カウンセラー、自助グループ)
 ②楽しいとか嬉しいを感じるところ(旅行、おしゃべり、アウトドアなど)
→ゲームはその数ある選択肢の中の一つになればいいよね

・お酒、ギャンブル、薬物など、親の依存症についての対応として、
 ①何が起きているか説明する(お酒がやめられない病気であること)
 ②子どものせいではないと伝える
 ③子どもには何もしなくていいと伝え、子どものつらい気持ちに共感し感情を受け止める
 ④親を悪く言わない

 

 

依存症からの回復の過程がいくつかの事例を元にもう少し詳細に描かれていたらもっとよかったと思いました。

 

オレンジ・ランプ

オレンジ・ランプ
山国 秀幸 (著)

39歳で若年性アルツハイマーと診断された営業マンの男性が「認知症」という病と向き合っていく誠実な物語でした。

ちなみに、本書は2023/6/30に映画として公開される予定です。

・映画「オレンジ・ランプ」予告動画
https://youtu.be/_MXsVb8qD18

 

 

老人の病気で、記憶がなくなり、自分のことも誰だか分からなくなり、周りに迷惑をかけ続け、やがて死にゆく最悪の病。

これが一般的な認知症のイメージだと思いますが、本書では認知症だから何でも忘れたり、何もできないわけではなく、工夫すればできることはたくさんあり、それでもできないことを周囲の人に助けてもらうという、認知症患者でも何とか今まで通りに生きていけるということを示した実話に基づいた内容になっていました。

 

※ オレンジリングは、認知症を支援する目印のリストバンドで認知症サポーター養成講座を受けるともらえます。

 

特に「何もできない」という決め付けが家族や周囲の支援者の間で固定観念になっていると思います。

「認知症だから、覚えていることはできないけど、忘れてもいいように工夫することはできるでしょ」

認知症本人ミーティングで語られた話は印象的で、そこから本書の主人公で認知症患者の只野晃一も失敗を恐れず、できないことを工夫するように変わっていきます。

 

 

認知症のことをもっと知りたい方は、本書のモデルとなった認知症患者の丹野智文さんの「認知症の私から見える社会」もおすすめです。

ブログ:認知症の私から見える社会
https://nishigahara4-harikyu.com/blog/society-see-dementia/