19番目のカルテ 徳重晃の問診(12)

19番目のカルテ 徳重晃の問診【12】(ゼノンコミックス)
富士屋カツヒト 、 川下剛史


なんでも治せるお医者さんを目指して奮闘する医師の物語の第十二巻です。

本作はTBSの日曜ドラマとして2025年7月13日に放送が開始され、9月7日の第8話で完結しました。

ドラマでは全部で8話と短く、総合診療医としての活躍が十分に伝えきれなかったので、続編があれば嬉しいと思いました。

今回は健康診断に3つも引っかかったという44歳の女性の話が印象に残りました。

総合診療医の徳重先生から、健康診断でひっかかった内臓脂肪、肝臓、心室性期外収縮の説明を受け、食事の見直し、適度な運動、睡眠時間の確保などに気を付けながら生活しましょうと提案されますが、心室性期外収縮に対して、薬とか手術とかしなくて大丈夫かと不安になってしまいます。

 

 

そこで徳重先生から、「もしかして家族が不整脈で亡くなったりしましたか?」と聞かれ、お母様が3年前の冬にお風呂で倒れて亡くなったこと、死因はおそらく心筋梗塞やそれに伴う不整脈だったことが明らかになります。

お母様が亡くなったことで、自分の健康診断の結果が怖くなってしまった患者さんに徳重先生は語りかけます。

「健康診断を行う目的は、個人の健康状態を評価し、必要に応じて生活習慣の改善や治療を促すこと、つまり適度に怖がらせるんです」

「過度な不安は偏った知識を身に付けやすくなってしまい無駄な治療や診察にかかってしまう。お金も時間も気持ちも過度に削られすぎてしまいます。そうなってしまうのは良くない」

「お母様の死は残念ですが、しかしそうしてあなたの健康を脅かす存在が分かり、そして今、その正体を知った。実はもう以前より怖くないのではありませんか?」

「病に怖れがあっても脅迫に負けないように、正体を知ること。それが健康診断の役割、健康への第一歩です」

たんに食事を見直して、適度な運動をして、睡眠時間の確保しましょう、と言われれば、それは当たり前のことを言っているだけで患者さんにも響きませんが、患者さんが何を心配しているのかを理解して、適切な助言をするのが本当の健康診断の役割だと思いました。

 

 

ほかには、熱が下がらない75歳の入院患者さんを診察する医師の話も気になりました。

検査でも異常所見が見られず、なぜ発熱が起きているのかの原因が分からずに悩む猿投先生。

そこで総合診療医に依頼するという話です。

今回私が気になったのは、熱の原因が下がらないことを気にして一生懸命になるあまり、患者さんが早く退院したがっていることに気付かず、電子カルテとにらめっこばかりして診てんだか、診てないんだかよく分からないと患者さんに思われていたことです。

 

 

また、電子カルテを見ながら病院の廊下を歩いていて、この発熱患者さんとぶつかってしまう場面があるのですが、最近診たばかりの患者さんの顔も名前も分からない状態でした。

「データばかりを見ていて、患者さんを診ていない」、そんなお医者さんが増えたら困るなと思いました。

だからこそ、患者さんそのものを診る、総合診療医のような存在が重要になってくるのだと考えています。

 


19番目のカルテ 徳重晃の問診 12巻【特典イラスト付き】 (ゼノンコミックス)

料理特化型デイサービス

産経新聞に掲載されていた記事からのご紹介です。

「 料理特化型デイサービス 」という記事です。(2025/9/21 朝刊)

要介護認定を受けた人たちが、食事や入浴、運動などの支援を受けるために通うデイサービスに新たな形態である「料理特化型デイサービス」が出てきたという話です。

このデイサービスを提供している「なないろクッキングスタジオ自由が丘」では、「高齢者の可能性を料理で引き出す」というコンセプトで運営されています。

 

 

利用者が集まるとまずはバイタルチェック(体温や血圧を測る)、その後はレシピに使う食材や栄養素に関する講座、軽いストレッチをしたあと調理が始まります。

調理が終わったあとは、もちろんお皿に盛り付け、全員で食卓を囲みます。

料理を作るという活動は、食材を切る、炒める、盛り付けるなど様々な工程があり、その都度考えながら手を動かすことで、脳が活性化され、認知症の予防にも繋がると言われています。

「料理特化型デイサービス」は現在、都内の4つの施設で展開されていて、事業者は高齢者が楽しんで通ってもらえる場を提供していきたいと考えている、という内容でした。

 

 

以前に当院のブログでも紹介しましたが、近年は従来の形態にこだわらず、様々な形態のデイサービスが展開されています。

ブログ:就労デイサービス
https://nishigahara4-harikyu.com/blog/workingdayservice

ブログ:「学び」と「ときめき」がある高齢社会へ
https://nishigahara4-harikyu.com/blog/learning-excitement-aged-society


いずれのデイサービスも、いかに「またここに来たい」と思ってもらえるか、高齢者に「選んでもらえるか」を考えて独自のアイディアを出しています。

これから益々高齢者が増える現代社会では、今後も新たなデイサービスが出てくるかもしれません。

鍼灸マッサージ院でも、従来の形態にとらわれず、「またここに来たい」と思ってもらえるような独自のサービスやコミュニケーション手段を考えていきたいと思いました。

 

私の治療的面接の世界とスーパーバイズ

私の治療的面接の世界とスーパーバイズ
増井 武士


精神療法家の増井先生のカウンセリングに関する書籍です。

増井先生の「可能な限り副作用がなく、早期に症状が低下する私なりの経験に基づいた方法」という治療面接の具体例が示されていて、とても勉強になりました。

患者さんがなぜ遠くから面接に来るのかの回答として、

「それはね、何か、先生と一緒にいて、先生の顔を見て、声を聞くだけで何か?ホッとして、何故かいろいろなことがどうでもいいような気持ちになるからですよ」

というのは、精神療法家として最高の褒め言葉だと思います。

鍼灸マッサージの施術はカウンセリングや治療面接とは異なりますが、「今日も先生と話し合えて楽しかったし、何となく気分がいい」と言って帰ってもらえるような施術を目指しているので、本書の内容や考え方は私の施術にとても役に立つと考えています。

 

 

私が勉強になった言葉を以下に抜粋しました。

・症状という模様

症状という模様が気になる状態のときは、それを打ち消したりしないで、別の好きな模様を作るほうがよい。
その別の模様が段々大きくなるほど、その症状の模様は相対的に小さく感じられるようになる。


・症状能力

患者さんの苦慮することの後に「能力」という文字をつけることは、そのおかげで患者さんが助かっている事実を想定する作業。その内省で患者さんの困っていることをいろんな角度から見ることができる。

 


・良くなることのイメージの点検

良くなるということは、最悪のときが以前より少しマシになっていくということで、決して落ち込まないということではない。大体、最悪期を100として、30ぐらいで行き来して、最悪時には90のときもあれば50になるときもある。心も身体と同じように自然の一部だから、毎日快晴なんてあり得ない。


・治療的関係

治療者は自分のことをあまり話してはいけないという何となくの決まりがあるが、患者さんに自分のことを聞かれたら素直に話すことと、どちらが大切か。どちらの方が患者さんの回復に役立つか、治療的関係ができるのか、その事実を見て決めることが大切。


・置いておく技法

気になる問題を箱に入れたり、ゴミ箱に入れて蓋をしたり、イメージで包み込んだりする技法がある。
問題や悩みに対して、「なぜ苦しいのか?」ではなく、「どんなふうに苦しいの?」という問いを置いて、心に寄り添うやり方もある。とにかく原因を見つけて除去すれば問題は解決と考えがちだが、「なぜ」と問うて原因を探す思考自体が心の問題にそぐわない。悩みに入り込まないことも大切。

 

 


・面接は一度きり、この回でおしまい、という気持ちでやる

面接が終わったとき、「なんとなくいい感じ」で終わっているときはそれでいい。そのために、自分ができること、こうしたら少し楽になれるのではないかということをきちんと伝える。
「カウンセリングは必要なくなってなんぼのもん」であり、面接が続く・続かないはそれほど重要ではない。面接が一度きりのものとして何を伝えるかを真剣に考えなくてはいけない。


・心にはさまざまな位置がある

心の最底辺に身体があって、その身体と重複するように非言語的な身体感覚のようなものがカオスな状態で位置していて、その上に、歩き方、動作、顔色、話し方や雰囲気といった少し具体化されやすい非言語的レベルがある。そして、もう少し上のレベルに、音声やテンポがあって、その上にイメージや直感という感じ方があり、さらに気持ちや気分、その上に言葉がきて、最も上には思想や論理や理念や考えがある。
来談者がよくなっていく順は、おおむねこの低いレベルから変化していく原則めいたものがある。

 


私の治療的面接の世界とスーパーバイズ: 新人間学として

19番目のカルテ 徳重晃の問診(11)

19番目のカルテ 徳重晃の問診【11】(ゼノンコミックス)
富士屋カツヒト 、 川下剛史


なんと、私がずっと読んでいる「19番目のカルテ」が7月13日(日)からTBSでドラマ化されます。

総合診療医の徳重先生は松本潤さん、滝野先生は小芝風花さんが演じるそうです。

参考サイト:TBS 日曜劇場『19番目のカルテ』
https://www.tbs.co.jp/19karte_tbs/

 


なんでも治せるお医者さんを目指して奮闘する医師の物語の第十一巻です。

今回は3年目の脳外科の医師の関先生の話が印象に残りました。

手術、外来、オンコール、病棟管理、救急当番、当直と忙しい毎日を送る関先生。

二浪して医学部に入っているため、同期には負けられないと必死で頑張っています。

新婚にも関わらず、次から次へと仕事を振られ、徐々に疲弊していく関先生。

病院の仕事に理解がある看護師の奥様からも、もう少し二人の時間がほしいと言われてしまいます。

 

 

総合診療医の徳重先生がそれに気づいて、関先生の診察をサポートしながら併診したいと、関先生の上司の長良先生に掛け合います。

長良先生は若い先生にたくさん仕事を振ってチャンスを与えて成長させたい、一人前になるためにはある程度の負荷も必要、という考え方をもっていて、自分自身もそうやって成長してきた先生です。

ところが、他科の徳重先生から見れば、余裕がなく仕事量が多すぎるように感じられます。

 

 

人材不足は喫緊の課題であり、人手が増えるのを待っているだけではなく、今いる人材を育てて層を厚くしていきたいという思いもある長良先生に徳重先生は語りかけます。

「同じ目的へ向かうのに、同じ道を行く必要はないと思います」

「僕は相手に期待するのではなく、信用することにしています」

「間違った方へ行かないように見守り、時々手を添える。それだけで十分だと僕は思うんです」

長良先生のやり方が間違っている、というのではなく、チューニングが必要かもしれないことを上手に伝えます。

徳重先生との話し合いを経て、長良先生も関先生を追い詰め過ぎていたと反省し、うまく仕事ができるよう調整していくという話でした。

 

 

これは病院の医師だけでなく、他の業種でも同じような問題があると思いました。

どの業界も人材不足で、今いる人に成長してもらいたい、という思いから負担をかけ過ぎてしまう。

仕事を任された若手も、期待に応えようとするあまり頑張り過ぎて燃え尽きてしまう。

そんな悪循環に対してどう対応すべきか。

徳重先生のアプローチは勉強になりました。

 


19番目のカルテ 徳重晃の問診 11巻【特典イラスト付き】 (ゼノンコミックス)

無資格ではないけれど違法である行為

今回は「無資格者の施術」とも関連する話題で、無資格ではないけれど違法である行為について書きます。

先日、山形地方裁判所である裁判の判決が出ました。

この裁判は、山形県の鍼灸マッサージ院が、フランチャイズ展開している整体院に対して、施術者が理学療法士であることを売りにして疾病や症状が緩和すると宣伝して事業を行っていることは法律に違反している、と訴えたものです。

引用サイト:山形市での訪問マッサージ(健康保険適用) 工藤はりきゅうマッサージ治療院

・KINMAQ整体院 山形南院を運営する会社を提訴しました。
http://blog.kudo-massage.com/?eid=141

・KINMAQ整体院に対する訴訟の判決。山形地裁は医業類似行為について、最高裁とは異なる解釈を示しました。
http://blog.kudo-massage.com/?eid=158

 


裁判の判決は、KINMAQ整体院のウェブサイトに表示されている内容の施術は、あはき法12条で禁止されている医業類似行為に該当し違法という結果でした。(「あはき」というのは、あん摩・はり・きゅうの頭文字をとった言葉です)


・山形地方裁判所令和7年3月25日判決令和5年(ワ)第61号
https://onedrive.live.com/?redeem=aHR0cHM6Ly8xZHJ2Lm1zL2IvYy8xZjE1NjI2NTMzNWU1NzIwL0VXTDlWa1JZYkJGTm5mck0wa0hMZkM4QkZaa1Y5RzIzUEFzRi1wVkZ0MDZXR2c%5FZT1keVlEQ3I&cid=1F156265335E5720&id=1F156265335E5720%21s4456fd626c584d119dfaccd241cb7c2f&parId=1F156265335E5720%21sd856a05bbfec416e86caa54fa2fbe92c&o=OneUp


おそらく、医療系の業界にいる人でないとこの裁判の争点が分からないと思いますので、以下に要点を書きます。

国家資格を持っているのに何が問題なのか?

それは「開業権」のない理学療法士が、開業、事業展開して、疾病や症状が緩和すると宣伝しているということです。

「開業権」とは、独立して開業するために必要な資格や免許のことを指します。

 

 

「開業権」について、医療系の国家資格では、以下のような感じになっています。

◆開業権あり:

医師、歯科医師、獣医師、助産師、薬剤師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師

◆開業権なし:

看護師(※)、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、歯科衛生士、診療放射線技師、臨床検査技師

※ 看護師は訪問看護ステーションやデイサービスなど、一定の要件を満たせば開業できます

例えば、

・診療放射線技師が、自分で放射線検査専門医院を開業して、放射線検査の事業をやる

・歯科衛生士が、自分で歯科衛生医院を開業して歯のクリーニングの事業をやる

といったことは違法です。

開業権のない国家資格は、医師、歯科医師の指示の元でないと業務を行えない法律になっているのです。

 

 

もちろん理学療法士も同様です。

日本理学療法士協会からも、「理学療法士が医師の指示を得ずに障害のある者に対し、理学療法を提供し、業とすることは違反行為となり開業は認められない」という見解が出ています。

引用サイト:公益社団法人日本理学療法士協会

・保険適用外の理学療法士活動に関する本会の見解
https://www.japanpt.or.jp/pt/announcement/asset/pdf/kyuukoku20150130.pdf


では違法と分かっているのに、なぜ開業できてしまうのか。

それは「整体」ということにすれば、誰でも開業できるからです。

このあたりは法律の整備が曖昧となっている状況です。

極端な話、このブログを読んで下さっている国家資格をお持ちでない方が、今日から自宅で〇〇整体院をやろうと思っても、誰の許可もなく開業できてしまうのです。

 

 

そのため、今回の件も

「理学療法士がやっています」

と宣伝しなければ、現行の制度上では特に法律に抵触することはなかったのですが(疾病や症状が緩和すると宣伝することは違法)、他の整体院と事業の差別化をして優位性を得るために国家資格を保有していることを誇示したのかなと思います。


ちなみに、私の鍼灸マッサージ学校の同級性に理学療法士の資格を持っている人がいました。

実技の授業でペアになることもあり、当時何も知らなかった私は色々と教えてもらいました。

「なんで理学療法士の資格を持っているのに、鍼灸マッサージ学校に入ったのですか?」

と聞いたら、

「理学療法士は開業権がないから、開業できる資格を取りたくて入りました」

と話していました。この方のように、きちんと開業権のある国家資格を取得し、法律を遵守している方もいらっしゃいます。

 

 

さて、今回は無資格ではないけれど違法である行為について書きました。

「国家資格を持っているから安心」と思って選んでも、実はそれが違法の可能性もあります。

違法行為をしていると、今回の事例のようにいつ摘発されるか分かりません。

例えば回数券を買ったけれども途中で違法であることが分かった場合、回数券を購入したお金は戻ってこないことも考えられます。

選ぶ側としてはなかなかそういったことを知る方法がないので、今回は裁判の判決に基づいて、注意喚起の意味で取り上げました。


参考ブログ:無資格者の施術について
https://nishigahara4-harikyu.com/blog/treatment-unlicensed-persons/