穏やかな死に医療はいらない
萬田 緑平 著
がんを治すための医療ではなく、死から逆算してその日までどう生きるかという考え方で、寝たきりにならず、最後まで自力でトイレに行き、寿命を使い切って亡くなる死を目標として実践している緩和ケアの話です。
抗がん剤治療を行いながら最後まで病気と戦うというのも一つの選択だと思いますが、高齢の場合や副作用がつらい場合には、あえて抗がん剤を行わず、穏やかに、緩やかに自宅で患者と家族が死を受け入れていくという考え方は共感できました。
とはいえ、自宅に戻って家族に迷惑をかけたくないと考える患者さんの思いももちろん理解できます。
しかし、緩和ケアというのは特別な用意はいらず、介護保険の範囲内でベッドやマットレス、歩行器、ポータブルトイレなどを用意して訪問看護やヘルパーを利用することで案外穏やかに死を迎えられるという考え方は勉強になりました。
・血圧や体温、呼吸の変化も急変ととらえるのではなく、死を目の前にした自然な身体の反応ととらえることで、患者さんに苦しい思いをさせず楽になるようにする
・心電図を見るのではなく、感謝の気持ちやお別れの言葉を使えるほうがずっと大切
・穏やかな看取りは薬のコントロールで決まるのではなく、患者さんと家族の心の状態で決まる
・家族は「生きていてくれるだけでうれしい」かもしれないが、本人にとっては苦しい時間が延びるだけということもある
など、穏やかな終末期をいかに過ごすかのヒントが満載でした。
本書では、がん専門の在宅緩和ケアを行っている診療所の話でしたが、がん以外の他の病気でも同様に穏やかな死を迎えるにはどうしたらよいかという点も知りたかったです。
穏やかな死に医療はいらない (朝日新書)