精神科医の本音 (SB新書)
益田 裕介 (著)
現在の精神科医療の実情について、率直に語られていて分かりやすかったです。
益田先生が作成している、精神科の実態を知ってもらったり精神疾患を解説したり、心理教育の補助を行う目的に作られたYoutubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」の取り組みも、精神疾患を知る有用なものだと思います。
本書では、採血や画像診断のような検査もなく、ただの会話を元に診断をする精神科医療において、どんなふうに診察しているのか、外来以外の治療手段はあるのか、医師の選び方、医療体制や経営の話など、様々な側面から精神科医療のことが説明されていました。
また、経済的な問題や労働の複雑化などの社会的な問題から精神科の患者さんが作られてしまう側面もあるという話も説得力がありました。
経済的問題では、貧困やシングルマザー、ヤングケアラーではどうしても負担が大きくなる人が増え精神に不調をきたしやすくなる。
労働問題では、仕事内容の高度化、複雑化で、社会から単純な仕事が減り、向かない仕事にでも従事せざるをえない労働環境が増えていることで、発達障害や適応障害の患者が増える。
精神疾患は個人の問題だけでなく、社会とも深く関わっており、精神疾患の患者数は今後も増えるというのはその通りだと思いました。
印象に残っている内容を以下に抜粋しました。
・多くの人が「治療」という言葉から連想するのは「元の状態に戻る」ということだが、精神科医療で扱う病気の場合、「受け入れる」や「共存する」のイメージの方が近い。だから、即効性のある薬物治療だけを治療だと思うと、面食らってしまう。治療が長期にわたることもあるので、通院のたびに、「患者さんに病気や自分、心というものについて学んでもらう」ことを続けるのが精神科医療の治療になる
・精神科を受診する目安として、以下のようなものがある
「食事が採れているか?」、「眠れているか?」、「動悸がしたり、涙が出たりしていないか?」、「残業時間の多さ」、「死にたい気持ちがあるか?」
ただ、正直疑問に思うところもありました。
再診が5分しか見ないのは診療報酬制度の問題とありますが、それは精神科だけの話ではなく、どの科も同じようだと思うのでやり方も工夫できるのではないかと思いました。
また、経済的、社会的豊かさも精神疾患の増加の一因だと思います。
高度経済成長期では、食うために働く、より豊かな生活のために働くという時代で、この時代では現在よりも精神疾患の患者さんは少なかったと考えています。モノが行き渡り食べるものに困らなくなったからこそ、逆に生きにくさに苦しむ人が増えているという現実があるのかもしれません。
さらに、気軽に精神科を受診できることも精神疾患の患者を増やしている一因だと感じますが、このあたりはとても難しい問題だと思います。
精神科や精神疾患について、色々なことを考えさせられる一冊でした。
精神科医の本音 (SB新書)