精神療法でわたしは変わった: 苦しみを話さずに心が軽くなった
増井 武士 著
独特の視点で描かれた精神療法で、勉強になることが多かった書籍です。
一般的な精神療法や心理療法の書籍では、
・患者さんがこう言ったら、治療者はこう返す
・患者さんのネガティブな発言を別の解釈で置き換える
・患者さんが訴えていることに対して、できていることを見つけていく
といったように、患者さんの言ったことに対して、治療者がどう振舞っていくかが描かれています。
ところが、本書ではそもそも苦悩を言葉にしたくない場合にどう面接を展開していくかが描かれており、今までの書籍とは一線を画します。
さらに、書籍の語り手が治療者ではなく患者さんになっていて、患者さんがどんな風に感じたか、どう思ったかを中心に描かれており、精神療法の中心が患者さんになっているのも斬新でした。
「私の精神療法は手っ取り早く言えば、ある精神的な病気に支配されている方々が、その病気に苦しむ自分自身の自覚を、まず深めることです。すると、いろいろな苦労をしている自分の感覚を見つけ出したりわかったりして、自己の理解が深まり、結果的に自己感覚が活性化して、精神的な苦悩への自己の支配感覚が広まります」
これは本書に登場する精神療法家の北野先生のブログの言葉ですが、患者さんが自分の感覚を深めることを大切にしていることがよく分かります。
本書を読んでいると、自分自身が患者のように、その感覚を疑似体験できるような感覚がありました。
本書の中で特に印象に残った内容を以下に抜粋します。
・私の方法では理屈を抜きにして、「ただなんとなく、すこし良い感じ」とか、「なんとなく、すこしおかしい感じ」という、”感じ”をとても大事にします。
・私の面接を受ける前と比較してみてください。もしくは、一、二ヶ月前の自分の状態と今の状態を比較してください。そのとき、今がすこしマシなら良い、その”マシ”を、私は非常に大切にします。私はあまりに早く、良くなることを期待していません。「以前からしてすこしマシなら、それでよし」という、ゆっくりした積み重ねを大事にします。
・心も自然の一部ですから、いつも快晴ではありません。「晴れときどき曇り、のち雨」というのが自然です。良いときもあれば悪いときもあるのが自然です。ただ、「悪いときに如何に早く立ち直れるか?」という意味で、立ち直りが以前より早ければ、それが良くなっていると言えるかも知れません。また、雨や嵐じたいが起こるのは避けられませんが、その”しのぎ方”を変えることはできます。
精神療法に興味がある方に、ぜひ読んでほしい一冊でした。

精神療法でわたしは変わった: 苦しみを話さずに心が軽くなった