Youtubeのストレッチ動画

今回は、Youtubeのストレッチ動画の話です。

当院にいらっしゃる患者さんの中には、Youtubeのストレッチの動画を見ながら同じようにやってみて体を痛めてしまった方も何人かいらっしゃいます。

最近はストレッチや体操など、動画で好きな時に見られるようになったのでとても便利です。

 

 

ただ、気を付けなければいけないこともあります。

それは

「そのストレッチまたは体操が、あなたの今の状態に合っているか」

ということです。

例えば、肩甲骨を動かすストレッチを動画出演者の真似をしながら何度かやって、痛みが出た患者さんがいらっしゃいました。

本来は痛みが出るほどやらない方がよいのですが、頑張ってやれば肩甲骨がほぐれて楽になるといった間違った考え方をしてしまい、かえって肩甲骨の周囲の筋肉を痛めてしまいました。

 

 

同じようにやろうとしても、体の柔軟性や動かしやすさは人それぞれです。

少なくとも痛みが出ているのを無理やり動かそうとするのはよくありません。

また、最初は痛くなくても、見様見真似で何度も筋肉に負担がかかる動きを繰り返して痛めてしまうこともあります。

ストレッチは、回数が多くなくてもゆっくり丁寧にやれば十分に効果があるのですが、動画ではそこまでは説明されませんし、動画を見ている人の年齢や体力、柔軟性、基礎疾患(※)の違いなども考慮されていません。

※ 厚生労働省:「基礎疾患を有する方」について
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001089705.pdf

 

 

自分自身でストレッチをしてセルフケアをしようという試みは素晴らしいことです。

もし動画を見ながらストレッチをやる場合には

・痛みが出たらそれ以上動かさない

・動画では早く動かしていてもきついと思ったらゆっくりやる

・最初から何度もやらず、まずは少ない回数からやってみる

・基礎疾患がある場合には医療従事者に相談してからやる

といったことに注意して、自分のペースでやるのがよいと思います。

 

高齢者は蚊に刺されない?

先日、90代の女性患者さんのお宅へ訪問施術に伺った時の話です。

約束の時間に伺うと、お部屋の中に蚊がいました。

私はとても気になったので、

『お部屋の中に蚊がいますね』

と声をかけました。できれば退治したかったのです。

 

 

すると、患者さんは

「蚊がいても全然気にならないわ。私はここ数年、全く蚊に刺されなくなったのよ。私の血はそんなにまずいのかしら?」

とおっしゃいました。

『そうですね』とお答えするわけにもいかないので、

『熟成された血の味が分からないのでしょう』

と答えたら、「そうかしらね」と、にっこりされていました。

 

 

気になったのであとで調べてみたところ、高齢になると免疫の仕組みで蚊に刺されても皮膚反応が現れなくなり、痒みや腫れを感じなくなるようです。(個人差はあるようですが)

参考サイト:日経Gooday
「年寄りは蚊に刺されてもかゆくない」は本当だった
https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/16/062300031/071900007/

そのため、この患者さんは蚊に刺されないのではなく、蚊に刺されても痒くならないのだと分かりました。

ただ、40代の私は痒くなって大変なので、できれば蚊がいない環境で施術をしたいと思いました。

 

悪習慣の罠

悪習慣の罠
山下 あきこ (著)


ストレス発散のためによかれと思ってとっている行動や習慣が、依存症を引き起こすきっかけになることが丁寧に解説されていて読みやすかったです。

依存症の種類として、ドラッグやお酒、タバコなどの「物質依存」、ギャンブルやゲームなどの「プロセス依存」、恋人や親子などで起こる「対人依存」の3種類があり、それぞれケースが示されていたのもよかったと思います。

 

 

ストレスの発散手段として、飲酒や喫煙などの行動をとることはよくありますが、この一瞬の快楽体験を繰り返していると普段の状態で飲酒や喫煙をしないことが苦しみを強く感じるようになるというのは驚きでした。

また、アルコールを飲みすぎると身体に悪いことは分かりますが、お菓子やジュースに入っている果糖もアルコールと同じような働きをしていて肝臓と脳にダメージを与えているというのも初めて知りました。

本文中の習慣の説明は非常に分かりやすかったので抜粋します。


習慣には「良い習慣」と「悪い習慣」がある。そして、「悪い習慣」の中でも「自分でコントロールできる状態」と「自分でコントロールできない状態」がある。このコントロールできない状態を「依存」とか嗜癖と呼んでいて、この依存が診断基準に当てはまったときに「依存症」という病気としてみなされる

 


ではその解決策はというと、これがなかなか難しいのです。

体を動かす、家族の協力を得る、日光にあたる、日記を書く、自然に触れるなどはよくある方法ですが、すぐに解決できるものではありません。

飲酒に関しては本書では自分の気持ちを感じたり、お酒の味を味わったり、マインドフルネスや呼吸瞑想、食べることに集中する瞑想、環境を整える、記録するという内容が紹介されていましが、地道にやっていくしかなさそうです。

また、プロセス依存に関しては「記憶の再固定化」の仕組みを利用した「消去学習」という、パズルをしながら依存行動の経験を語らせることで記憶を上書きする治療法は初めて知ったので、興味深かったです。

いかにストレスをためこまず小まめに発散できるか、相談して理解・共感してくれる人を見つけるかが大事だと思います。

 

 

最終章の幸福について考える話で、一時的な快楽と長期的な幸福を区別するという考え方は勉強になりました。

・幸福には「ヘドニア」という短期的な快楽を求めるものと、「ユーダイモニア」という親切、平和、健康、信頼など人生全体の幸せの2種類があること

・幸福を作る因子として以下の4つがある

(1)やってみよう因子(自分の力を信じて成長しようとする気持ち)
(2)ありがとう因子(誰かに感謝することで幸福度が上がる)
(3)なんとかなる因子(きっと乗り越えられると未来に希望を持つ)
(4)ありのままに因子(苦しい、休みたいというありのままを受け入れる)

 


悪習慣の罠 (扶桑社BOOKS新書)

病気自慢ではなく健康自慢に

70代の患者さんから聴いた話です。

その方は昨年の12月から腰痛がひどく、歩くのも大変だったのですが、徐々に回復し現在は健やかに過ごしておられます。

 

 

毎週通っていたボーリングも腰痛が治ってから再開しました。

その際、ボーリング仲間の方々に、どんなにつらい腰痛だったかお話されたそうです。

すると、、、

・私なんて膝が痛すぎて手術して大変だったのよ

・私は転んで大腿骨を骨折して3か月入院していたんだから

・私だって腎臓が悪くて食事制限がきつくて…

・私なんて夫の介護で自分の体が痛くなってどれだけ大変だったか…

といった感じで病気自慢大会が始まってしまったそうです。

 

 

皆さん、大変な苦労をしてこられて、自分がいかに大変だったかを聴いてほしいのですね。

また以前は別の70代の方が、同窓会に行くと皆病気や介護の話ばっかりで気分が滅入るとおっしゃっていました。

そこで、提案です。

病気自慢ではなくて、健康自慢にしたらいかがでしょうか?

・私は膝が痛くて大変だったけど、こんな運動をしたら楽になって今では杖なしで歩ける

・私なんて毎日ラジオ体操をして、昼間は5000歩、歩いているのよ

・私だって毎週ヨガに通ったり、アクアビクスで体を動かしているんだから

・私は毎日ワンチャンの散歩をしてそれがよい気分転換になっているわよ

・私は定期的に鍼灸治療を受けて体の不調を整えてもらっているよ

などなど、元気でいるためにやっていること、やって良かったことなどを自慢するのです。

 

 

もちろん、「だからあなたもやりなさいよ」と相手に押し付けるのはダメです。

「こんなことをやったらいいのかも」と相手に密かに思ってもらう方がよいです。

そうやって、良さそうなことを話していると、気分が明るくなって元気になることもあると思うのです。

ですから、もし病気自慢大会になりそうだったら、

「今なんで元気でいられているの?」

「すごく元気だけど、健康のために何かやってることある?」

なんて聞いてみると、話の流れが健康自慢の方向に変わるかもしれません。

 

 

褥瘡に関する気付き

褥瘡(じょくそう)に関して勉強になった書籍がありましたので、紹介いたします。

『医療は「生活」に出会えるか』 竹内孝仁 著

褥瘡は主に寝たきりの患者さんに対して、骨の突出部などを長時間圧迫することによってできるものです。

ふだん体重などを支えることのない仙骨部、かかとの後上方、腓骨頭などが好発部位となります。

 

 

つまり、「通常では体重のかからない部位を長時間圧迫する」ことによってできます。

あらためて人体を眺めてみると、長時間の圧迫に耐える場所があります。

足の裏、殿部から大腿後面にかけての部位などがそうです。

長い時間立っていたり、座り続けても褥瘡をつくることはないのです。

 

 

褥瘡予防というと、基本的に「体位変換」が原則となっていますが、それは昏睡状態や不安定な全身状態にある急性期の患者さんに対する方法であったそうです。

それが慢性期の寝たきり患者さんたちにも同じ方法がとられていることが問題であると著者は述べています。

 

 

その結果、体位変換をやめて、「座る」という平凡なことが褥瘡を予防する優れた方法になると気付きました。

長いこと寝たきりの患者さんの場合、起立性低血圧を起こしたり、首や体幹の筋肉が弱くなっているため、座位の姿勢を長くとることは難しいかもしれませんが、少しずつでも続けていくことで、褥瘡が減少していったそうです。

 

 

私たちは、普段何気なく座ったり、立ったり、歩いたりしていますが、当たり前すぎてそれ自体が健康を保つ重要な働きをしていることを忘れがちです。

褥瘡という病気を治す力の源泉が、実は生活の中にあったというのは大きな気付きだと思いました。

 


医療は「生活」に出会えるか