施術者の鍼灸マッサージの患者経験

今回は施術者の鍼灸マッサージの患者経験について書きます。

鍼灸マッサージの専門学校に入ってすぐの頃、ある授業の先生がこんな質問をしました。

「この中で、鍼灸を受けたことがある人はいますか?」

クラスには62人の学生がいましたが、さて何人が手を挙げたと思いますか?

 

 

手を挙げたのは、私を含めて3人でした。

私自身、これはちょっと驚きました。

20人くらいは手を挙げるのではないかと思っていたからです。

とはいえ、3年間の授業の中で学生同士で鍼灸をやり合うので、いやでも経験していくことになります。

私は鍼灸マッサージの専門学校に入学する前から、約5年くらい鍼灸を受けていました。

 

 

その経験からですが、自分自身が鍼灸マッサージ師として施術をするうえで、患者経験はとても大事だと考えています。

なぜなら、どんな配慮が必要なのか、どんな声掛けが必要か、自分自身が経験することで患者さんの気持ちが分かるからです。

・話がしやすい雰囲気か?

・寒くないか、暑くないか?

・ベッドは汚れていないか、院内は清潔か?

・うつ伏せは苦しくないか?

・刺してある鍼は痛くないか?

・鍼が響きすぎて痛いと言ったとき、どんな対応をするか?

・お灸は熱すぎないか?

・同じ姿勢でつらくないか?


など、患者さんが気にすることはいくらでもあります。

すでに鍼灸マッサージ師の資格を持って施術をしている先生の対応を見たり感じたりするのも勉強になりますし、自分ならどうしてほしいかを考えるのもすごく役に立ちます。

また、患者としてではなく施術者の立場では、どうやって体を確認するのか、どこから触るのか、どんなことを聴いていくのか、といったことも学びになる思います。

鍼灸マッサージの専門学校に在学中も、いくつかの治療院に施術を受けに行きましたし、国家資格を取得してからも勉強のためいろんなタイプの鍼灸治療を受けに行きました。

 

 

私は30歳から鍼灸マッサージの専門学校に入学しているので、他の同級生と比べると手の動きや物覚え、記憶力などが劣っていましたが、この患者経験は有利だと考えました。

それは他の同級生が、どのツボに鍼をしたら効くか、脈はどうやってみるのか、鍼を何本刺せば効くか、鍼を刺しながらどう動かすか、といった技術的なことばかりを気にしている中、「患者さんがどう感じているか」という視点をもっていたからです。

開業した現在でもこの視点は変わらず大事にしています。

もしこれから鍼灸マッサージの専門学校に入学することを考えていたり、すでに在学中の方は、学校以外の場所で鍼灸マッサージの施術を受けてみて、患者さんの立場で考えてみることをおすすめします。

 

国家資格等のオンライン・デジタル化

現在、国家資格等のオンライン・デジタル化が始まっています。

参考サイト:デジタル庁 国家資格のオンライン・デジタル化が始まります
https://digital-gov.note.jp/n/n15030e2601fb

国家資格の免許がデジタル化すると、資格保有者の住所や氏名の変更申請が簡素化されたり、デジタル資格者証のデータを入手したりできるようです。

 

 

2024年8月6日からは4つの国家資格(社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士、公認心理師)のオンライン・デジタル化が始まっています。

私が保有している、「あん摩マッサージ指圧師」、「はり師」、「きゅう師」(以下、あはき)の資格は、2025年秋以降順次対応が行われる予定となっています。

現状、あはき以外にも、医師や看護師、薬剤師など医療系の国家資格の資格証はB4サイズの紙のものだけです。

「あなたは、あはきの国家資格を持っていますか?」

と患者さんに質問された場合、証明する手段として紙の資格証を見せるしかありません。

 

 

個人事業主として開業している場合は、紙の資格証を院内に掲示しているところが多いと思います。(当院でも院内に掲示してあります)

ただ、病院や鍼灸院、介護施設などに勤務している場合は、資格証を持ち歩いているわけではないので、国家資格保有者であることの証明が難しかったのです。

これがデジタル資格者証になれば、電子署名が付与されたデジタル資格者証がPDF形式で発行できるため、国家資格保有者であることが証明しやすくなります。

 

 

現在、無資格者の施術による健康被害が増加しています。

デジタル資格者証があれば、患者さんが施術を受ける前に、国家資格保有者であるか簡単に確認することができるようになると思います。

最近も歯科医療において、歯科助手が無資格で治療行為をしていた疑いがあり、歯科医師法違反容疑で歯科医師の院長と歯科助手の女性が逮捕されるニュースがありました。

参考サイト:YAHOO!ニュース 歯科助手が無資格で治療行為か 歯科医師法違反容疑で院長ら逮捕
https://news.yahoo.co.jp/articles/0e0a7a65d1230d478484da2c9259196b8363c9a2

 

今後もこうした事件が増えると、医療系の仕事はデジタル資格者証を患者さんに提示してから診療や施術を行う、という流れになっていくかもしれません。

参考ブログ:

無資格者と有資格者の区別
https://nishigahara4-harikyu.com/blog/qualifiedperson/

無資格者の施術について
https://nishigahara4-harikyu.com/blog/treatment-unlicensed-persons/

 

また、現状は保健所にあはきの開業届を提出する際、「あはき国家資格の資格証の原本」+「資格証の写し」を準備する必要がありますが、これも今後は不要になっていくかもしれません。

ただ、デジタルの場合、改ざんや不正も増えていくと思うので、そのあたりの対策がしっかりされているかが重要です。

今後、様々な分野でデジタル化、オンライン化が進むと思いますので、適宜情報をチェックしながら対応していきたいと思います。

 

 

鍼の響きが好きな患者さん

今回は、鍼の響きが好きな患者さんと話したことを書きます。

この患者さん(以下Aさん)とは開業当初からの付き合いなのですが、最初にいらした時から

「鍼の響きが好きなので、できれば鍼を響かせてほしいです」

と言われました。

 

 

鍼の響きとは、鍼を体表部に刺入したときに感じる、鈍く重い感じやズーンとした感じのことです。

参考ブログ:鍼の響きについて
https://nishigahara4-harikyu.com/blog/sound-acupuncture/

 

Aさんには私の鍼が合っていたようで、その後もお体のメンテナンスで来院して下さっています。

先日Aさんがいらした時に、

「やさしい鍼、痛くない鍼とアピールするところはたくさんありますが、響く鍼、ズシンくる鍼をやります、とアピールするところは見たことないですよね」

と話していました。

 

 

この話を聴いて、なるほどと思いました。

例えば飲食店では

「激辛ラーメンやってます!」

と激辛アピールをすると、辛い物好きの人が集まりますし、他と差別化できます。

または

「当店は特盛メニューがあって、残したら倍の料金をいただきます」

みたいなものも、大食いの人が集まる差別化です。

もしくは

「マグロ料理に特化しています」

というお店だとマグロ好きの方が集まります。

 

 


では、鍼灸ではどんな専門があるのか。

不妊治療専門、美容鍼灸専門、スポーツ疾患専門

など、症状や分野での専門はありますが、鍼の打ち方や響きを売りにしているところはないかもしれません。

「鍼」というと、「痛そう」、「こわい」といったイメージがあるため、そのイメージを和らげるために「やさしい鍼」、「痛くない鍼」といったアピールをするところが多いのだと思います。

当院にも「鍼の響きが好き!」という患者さんが何人かいらっしゃいますので、「響かせる鍼をします」というアピールも一定の需要があるかもしれません。

鍼灸院や整骨院が増えて飽和状態になっている中、他院との差別化という意味で、考えさせられた話でした。

 

マッサージだけの患者さんもいますか?

患者さんから

「はり・きゅうをやらずに、マッサージだけの患者さんもいますか?」

ということをよく聞かれます。

そこで今回は当院にいらしている患者さんがどんな施術を受けることが多いのかを書きます。

 

 

当院の施術を大きく分けると、「マッサージ」、「はり」、「きゅう」の3種類があります。
(マッサージは厳密には「あん摩マッサージ指圧」ですが、分かりやすくするため「マッサージ」とします)

この3種類を組み合わせて以下の4つのパターンに分類しました。

「マッサージのみ」、「はり・マッサージ」、「きゅう・マッサージ」、「はり・きゅう・マッサージ」

※ 「はり」「きゅう」いずれかのみというケースは約5年間で2例だけですので、分類からは除外しました。マッサージはくすぐったいから苦手、鍼だけでやってほしい、というケースでした。

2024年4月~2024年9月の半年間で、当院にいらした患者さんがどんな施術を受けたのかまとめました。

「マッサージのみ」        :10.49%
「はり・マッサージ」     :3.24%
「きゅう・マッサージ」    :6.94%
「はり・きゅう・マッサージ」 :79.32%

「マッサージのみ」の患者さんは約10%で、「はり・きゅう・マッサージ」を全て併用する患者さんが約80%でした。

多くの患者さんがはり・きゅう・マッサージを併用していました。

ただ、現在は「はり・きゅう・マッサージ」をやっている患者さんでも、最初は「マッサージのみ」というケースもありました。

 

 

何度か施術をする中で、

・患者さんから、はり・きゅうも試してみたいと言われた

・症状がなかなか改善しないため、私からはり・きゅうの施術を提案した

というケースもあります。

 

もちろん初めていらして、「はり・きゅう」をやってほしいというケースも多いです。

このケースは

・以前から「はり・きゅう」をやったことがある

・家族や友人、知人から「はり・きゅう」をすすめられた

・整形外科や整骨院に通っているが症状が改善しないため、「はり・きゅう」を試したい

といったパターンが多いです。

 

 

今回は、患者さんが当院でどんな施術を受けているのかをまとめました。

「はり・きゅう・マッサージ」を併用している患者さんが多いですが、「マッサージのみ」という患者さんも一割程度いらっしゃいます。

初めてだけど「はり・きゅう」は恐いから「マッサージのみ」でやってみたい、ということでももちろん大丈夫です。

お気軽にご相談下さると嬉しいです。

 

針灸臨床ノート 針灸治療に伴うムード

「針灸臨床ノート第3集(代田文誌 著)」に書かれていた「針灸治療に伴うムード」の内容が興味深かったので紹介します。
(「はり」という漢字について、今は「鍼」と書くことが多いですが、書籍は「針」となっていたので、書籍名は「針」という漢字のままにしています)

 

第3集の210ページ~211ページの記載を以下に抜粋します。

まずは、一人の医師が語ったという言葉です。

「われわれの治療の際には、それの終わったあとに、すぐに気分がよくなったといってよろこぶ人などは、ほとんど無いといってよい。ところが、針灸治療を行うところをそばで見ていると、治療がすんだあとに患者さんが、明るいなごやかな顔になって、たいへん気分がよくなったといって、帰ってゆくことが多い。針灸治療にはそうした即効的な効果があることは確かだが、そればかりでなく、針灸治療の際の治療室の空気に、そうした特有のムードがただよっているのですね」

 

 

それについて、代田先生が書かれたことです。

「診察し、処置し、処方を書き、投薬をするといった医師たちの治療とはちがって、針灸の治療には治者と被治者とのあいだに、心の交流があるのである。患者の訴えるいちいちの症状の対して、それに相応する治療をおこなう。うつ針の一本一本に心がこもる。すえる灸の一つ一つに心がこもる。すみやかに病苦が除かれるようにとの、祈りの心がこめられる。こうした治療行為を通して、心がふれあう。まごごろの触れあいによって、一種の融和した雰囲気が生じ、患者の心が安らぎ、明るい気分になる。針灸の治療行為には、一種のムードを伴い、人の心を明るくし、なごやかにするようなムードをかもしだす」

 

 

この話はとても共感できる内容でした。

鍼灸治療というのは、鍼灸そのものの効果だけでなく、鍼によって伝わる響きや、灸よって伝わる温かさ、心地よさのようなものに加えて、患者さんと施術者の触れ合いがあり、会話があり、リズムがあり、それら全部が心理的な気分に影響を与えて、治療室の雰囲気を作っているのだと思います。

もちろん鍼灸だけでなくマッサージにも同じ要素がありますが、直接肌に触れて行う針灸の方がより独特のムードというか雰囲気が出て、それが癒しや心理的安定などにもつながりやすいかもしれません。

 

 

患者さんに安心感や期待感、心地よさや安らぎを感じてもらえた方が、より症状が改善しやすいと考えています。

そうした鍼灸マッサージ治療ができるよう心掛けていきたいです。

 


鍼灸臨床ノート 下巻(オンデマンド版)