鍼の響きについて

今回は鍼をした時に患者さんが感じる響き(ひびき)について、私の考えを書いてみたいと思います。

鍼を体表部に刺入すると、鈍く重い感じやズーンとした感じが出ることがあります。

「針灸臨床ノート第3集(代田文誌 著)」でもこのことに触れていて、この現象を鍼のひびき、または「鍼響」とも言うそうです。

 

 

鍼を受ける患者さんの中には、この鍼のひびきが好きな方もいらっしゃれば、苦手だという方もいらっしゃいます。

「鍼をひびかせた方がよいか?」というのは同業者の中でも意見が分かれるところだと思います。

鍼がひびいた方が効くか、ひびかないと効かないか、となるとなんとも言えません。

針灸臨床ノート第3集では、以下の書かれていました。

「生理学的な立場から検討するならば、ひびかぬ鍼でも効くし、ひびく鍼でも効くわけだ。どちらも人体には刺激として作用するからである。人間の大脳で感覚できないような刺激であっても、間脳や視床下部の生命中枢では、ちゃんと生体への刺激として感受し、生体反応をおこすにちがいない」

 

 

私が今まで治療を行ってきた経験では、

・鍼のひびきが好きな人には、ひびかせた方がよく効く

・鍼のひびきが苦手な人には、ひびかせない方がよい

ということです。

鍼のひびきが好きな人は、ひびきを気持ちよく感じることで、例えば腰の刺激が足の指先までひびくような場合、「足先までジーンとひびいて効いてる気がします」などとおっしゃることもあります。

一方、鍼のひびきが苦手な人にひびかせると、それを「不快な痛み」として認識してしまい、かえって緊張します。

一度「不快な痛み」が起こると、次に鍼をしようとした時にも無意識に体に力が入って身構えてしまい、逆効果になってしまいます。

そのため、鍼のひびきが苦手な人には、できるだけひびかせない方がよいと考えています。

 

 

ちなみに、鍼のひびきが好きな人の方が鍼治療の効果が出やすいとも感じています。

当院では問診の際に「今まで鍼灸を受けたことがあるか?」を必ず聴いており、受けたことがある場合には「鍼灸を受けた結果、どう感じたか」を聴くようにしています。

鍼のひびきを「心地よく感じる」、「効いている気がする」とおっしゃる患者さんには患者さんの反応を診ながら少しずつひびかせるようにします。

逆に「ズーンとくるのが痛かった」、「びりびりして気持ち悪かった」とおっしゃる患者さんにはひびかせないように注意するか、初回は鍼灸をやらないことも考えます。

鍼灸を受けた経験を聴くことで、当院でどのように鍼灸をやっていくかの判断材料になるのです。

とはいえ、鍼灸の施術者の力量や患者さんとの相性、接し方の問題もあるので、以前に鍼を受けたときに痛かったとおっしゃっていた患者さんでも、当院で鍼をした場合には痛みはなくて施術後は楽になった、とおっしゃる方もいらっしゃいます。

もちろん高齢者や小児にやる場合には、鍼の刺激量に注意し、強いひびきが出ないよう気を付けながら、かつ患者さんの反応を診ながら施術するようにしています。

今回は鍼のひびきのことについて書きましたが、結局鍼をひびかせた方がよいかどうかは患者さんによると考えていますので、患者さんの過去の経験や、鍼治療をした時の反応をきちんと観察したうえで、ひびかせるかどうか、ひびきをどれだけ出すかどうかを考えながら施術していきます。

 

針灸臨床ノート 毎日灸をすえる

先日まで、鍼灸の専門書である

「針灸臨床ノート第1集~第3集」(代田文誌 著)

を毎日少しずつ読んで、ようやく読み終わりました。
(「はり」という漢字について、今は「鍼」と書くことが多いですが、書籍は「針」となっていたので、書籍名は「針」という漢字のままにしています)

代田先生は鍼灸業界ではものすごく有名な方で、いくつも症例報告をして、著書も多数あります。

本書は、代田先生が昭和34年から昭和46年8月までの十年以上の臨床での出来事や症例、患者さんとの関わり方などを書いた書籍です。

昭和34年というと、65年以上前に行った施術記録ですが、勉強になることが多かったです。

今回は、その中に出てくるお灸の話をいたします。

 

 

本書の中で何度も出てくる記述で、

「自宅で灸せしめた」
「毎日灸をすえてもらった」

という言葉がありました。

これは、

「施術した患者さんの体にお灸の印を付けて、家で毎日患者さんにお灸をしてもらった」

という意味です。(背中など自分でやるのが難しい場所は家族にやってもらったようです)

代田先生が施術をされていた昭和30年~40年代はまだ自宅でお灸をやる習慣があったのだと思います。

そうやって、毎日自宅で患者さんにお灸を続けてもらい、その結果、症状や疾患がどう変化していったのか、後日来院した時に確認するという症例が多かったです。

 

 

では、現代社会において、患者さん(またはその家族)に毎日家でお灸(※)をしてもらうことは可能か?

※ ここでいうお灸とは火をつけるだけの台座灸ではなく、もぐさをひねって皮膚に乗せる直接灸を指しています。台座灸なら不慣れな方でもすぐにできますが、もぐさをひねるとなるとコツがいるので、もっと手間と時間がかかるのです。

第3集の205ページに、以下の記載がありました。

「昨今の東京では、せっかく体を診てあげ、お灸のツボをおろしてあげたのに、お灸のつづかぬ人が多い。それはお灸を家庭ですえてくれる人がないからだ」

昭和30年~40年代においてもお灸をすえてくれる人がいないと書かれていますが、昨今ではさらに晩婚化、少子化、独居の増加がすすんでおり、昭和の時代以上にお灸をすえてくれる人はいないと思います。

さらに、昭和の時代よりも娯楽が増えて、働いている人が多くて忙しない現代社会においては、毎日お灸を続けるのは難しいのではないかと考えています。

 

 

ここで書かれた症例を参考にして施術をしても、毎日家でお灸をしてもらわないとよい効果が出にくいのだとしたら、現代社会でも対応できる別の何かを考えなくてはいけません。

もちろん「患者さんにもぐさをひねるお灸のやり方を教える」という方法もありますが、根気よく続けられるかは分かりません。

症例報告などを色々読んでいると、この症状ではこんなやり方が効いた、こんなツボを使ったらうまくいった、といったことに注目しがちですが、患者さん自身の治ろうとする努力が何よりも大切なことだと本書を読んで改めて考えました。

 


針灸臨床ノート 上巻(第1集・第2集)

鍼でやせますか

今回は患者さんによく聴かれる質問である

「鍼でやせますか? やせるツボはありますか?」

について、考えたいと思います。

 

 

答えにくい質問ですが、私は患者さんに聴かれたら

『鍼(灸)をしたからやせるわけではなく、やせるツボもないと思います』

と回答しています。さらに続けて、

『ただ、鍼灸をすることで体の中の老廃物が流れやすくなってむくみが改善したり、便通がよくなったり、ストレスからの大食いが抑制されたりといった効果は期待できるので、その結果、体重が減るという可能性はあります』

このように回答すると、

「そうですよね~」

とおっしゃって納得して下さる方が多いです。

 

やせるためには食事や運動という生活習慣が大切であり、鍼(灸)でやせる、というのはちょっと難しいと考えています。

食事も運動も習慣化して継続するのがとても難しいので、当院にいらした患者さんには、習慣化するためのコツや考え方を紹介することもあります。

『千里の道も一歩から』

やせるには、地道にできることから一歩一歩やっていく必要がありそうです。

参考ブログ:習慣化へのきっかけ作り
https://nishigahara4-harikyu.com/blog/making-the-opportunity/

参考ブログ:習慣化を継続する
https://nishigahara4-harikyu.com/blog/continue-the-opportunity/

 

私の3人の師匠③(光ヶ丘の先生)

私には治療家として、師匠と呼べる先生が3人います。

他にもお世話になったり勉強会で出会った先輩や先生はたくさんいますが、師匠と呼べるのは3人の先生です。

3人の先生とは、いずれも5年以上の付き合いがあります。

①府中の先生

②武蔵小山の先生

③光が丘の先生

どの先生にも共通しているのが、常に学び続けているということです。

それぞれの先生との出会いや学んだことを書いていきたいと思います。

3回目は「③光が丘の先生」のことを書きます。

光が丘の先生は、インターネットで検索して見つけた全盲の先生です。

 

 

私が勉強していた操体法やアレクサンダーテクニークを取り入れて施術をやっている先生を探していて、2014年4月に施術を受けにいきました。

その後、光が丘の先生が主催する勉強会に行くようになって、さらにマンツーマンで手技(マッサージ)を教えていただけることになり、毎週2時間くらい勉強しに行くようになりました。

光が丘の先生とは、お互いに体の状態をチェックするところから始めて、

・こう動かしたら体の状態がどう変化するか

・ここを刺激したら、その後どうなるか

・体をどう動かしたら楽に動くか

といったことをお互いに施術し合うことで確認していくやり方が多かったです。

 

 

強すぎる手技では体が緊張して抵抗しようとするため、「おさえる」という感覚を大事にした方がよいことを教えて下さったのも光が丘の先生です。

先生は全盲のため、見るのではなく実際に触って体の状態を確かめるのですが、触り方がとても柔らかくて繊細ですし、滞っていたり固まっているポイントを見つけ出す技術がずば抜けていました。

その技術を少しでも学びたくて、ほとんど毎週通っていました。

たまに、別の治療家の方や、盲学校の実習生の方がいらっしゃることもあり、その際には3人で体の状態を確認していました。

光が丘の先生は、

「治療は患者さんの体の微細な変化に気づいていく作業である」

とおっしゃっていて、微細な変化に気づいていくためには介入もより微細になっていくのだと教えてくださいました。

私が患者さんの体に対して柔らかく、繊細に触れるよう意識しているのは、光が丘の先生の影響が大きいです。

 

 

私は2021年10月に同行援護従業者一般課程(視覚障がい者ガイドヘルパー)の資格を取ったのですが、この資格を取得する前から全盲の先生と外出したり、食事をしたりしていました。

そのため、全盲の方のサポートにも慣れていて、こういった経験が現在当院にいらしている視覚障がい者の援助に役立っており、先生とのご縁のおかげだと思います。

ちなみに、当院にいらしている患者さんの旦那さんが全盲のマッサージ師の方で、その方とも色々とお話をするようになりました。

その後、その方も治療の技術を勉強したいということで、私が光ヶ丘の先生に教わった触り方や体の動かし方をお伝えしながら、1年半くらい当院で一緒に学びました。

こうして学びを別の方に伝えることで、恩送りができたのかなと思っています。

2019年に私が開業してからは月1回伺って勉強させていただきましたが、2021年10月からは先生が忙しくなって最近はお会いできておらず年賀状とメールでのやりとりとなっています。

近々また時間を見つけて伺いたいです。

以上、3回に分けて私が師匠と呼べる3人の先生との出会いや学んだことをお話しました。

3人の先生に心からの感謝を申し上げると共に、先生たちから学んだことを生かしてこれからも精進していきたいと思います。

 

私の3人の師匠②(武蔵小山の先生)

私には治療家として、師匠と呼べる先生が3人います。

他にもお世話になったり勉強会で出会った先輩や先生はたくさんいますが、師匠と呼べるのは3人の先生です。

3人の先生とは、いずれも5年以上の付き合いがあります。

①府中の先生

②武蔵小山の先生

③光が丘の先生

どの先生にも共通しているのが、常に学び続けているということです。

それぞれの先生との出会いや学んだことを3回に分けて書いていきたいと思います。

2回目は「②武蔵小山の先生」のことを書きます。

 

 

武蔵小山の先生は、府中の先生が昔働いていた治療院で、スタッフがたくさんいるから修業場所としてよいのではと紹介していただきました。

この治療院はバブルの時代の全盛期にはベッド10台が稼動していたそうで、スタッフも10人~20人雇っていたというやり手の先生です。

私がお世話になったのは2014年5月からで、その時点ではベッド5台が稼動していて、スタッフは7人~10人いました。(スタッフは常勤、非常勤が混在していました)

私は日中は別の治療院で働いていたため、治療院の仕事が終わった後に週5回19時30分~21時30分くらいまで、治療院の掃除や片付けをしながら勉強させていただきました。

 

 

武蔵小山の先生のところでは、徹底して反復練習をしました。

空き時間は常に、先生かスタッフにマッサージか鍼灸の練習をしていました。

最初の頃は、先生に「今の鍼は痛い!」とか「場所がずれてる」とか言われてひやひやしましたが、繰り返し行うことで少しずつ身に付いてきました。

私自身もあとから入ったスタッフの練習台になって痛い鍼を打たれたことはよい思い出です(笑)

また、患者さんがいらっしゃる時には、他の先生がどんなふうに鍼を打っているのかよく見ているように言われました。

勉強会や講習会ではなく、実際の患者さんを施術している様子を間近で見せていただける機会はあまりないので、とてもありがたいことでした。

その際、こんな疾患の患者さんの場合にはこのツボを使うとか、鍼を打つときのリズムとか、鍼の抜き方とか、こういったケースは鍼よりもお灸の方がよいということを、実際に患者さんの変化を見ながら学ぶことができました。

 

 

私が現在行っている鍼の打ち方は、武蔵小山の先生に教えていただいたやり方です。

今までやってきたやり方をがらっと変えるやり方だったので当時は大変でしたが、繰り返し練習して身に付けました。

例えば、専門学校や鍼灸の講習会では、トン・トン・トン・トンと同じリズムで鍼を打つよう教わりましたが、武蔵小山の先生からは、トン・・・トン・トン・トンと、あえて1回目のあとは間を取る方がよいことを教わりました。

どんなに上手な先生でも、たまには本当に痛いポイント(痛点)に鍼があたってしまうことがあります。

その際に、トン・トン・トン・トンとやってしまうと患者さんに痛い思いをさせてしまいます。

ところが、トン・・・とやって間を取ることで、その場所が痛点でないことを確認してから鍼を入れられるので、患者さんに痛い思いをさせることが少なくなります。

最初はこの鍼の打ち方の理由を教えてもらえず自分で考えるよう言われましたが、何度も練習していくうちに理由が分かってきました。

ほかにも、お灸に使うもぐさをひねる練習をしたり、吸玉療法やイトウテルミーといった鍼灸マッサージ以外の療法も教わりました。

武蔵小山の先生のところでは、何度も何度も基本動作の反復練習をさせていただき、本当にありがたかったです。

 

 

こちらから勉強しに行っているのでお金を頂戴することは考えていなかったのですが、2015年からは交通費を、2017年からはアルバイト代をいただけるようになり、実際に患者さんに施術をする機会も増えていきました。

私の転職や開業もあり、治療院に伺う頻度は週2回17時30分~21時30分、週1回17時30分~21時30分に変わっていきましたが、先生が病気になって閉院する2021年4月まで約7年間お世話になりました。

私が開業する際には、ホームページに掲載する推薦のお言葉をいただけたこともありがたいことでした。

残念ながら武蔵小山の先生は2021年11月に永眠されましたが、繰り返し練習して学んだ先生の教えは私の手に染み付いています。