精神科医という仕事: 日常臨床の精神療法
青木 省三 (著)
著者の40年の精神科臨床の経験で得た気付きが色々な視点から語られていて勉強になりました。
精神科医の仕事として、症状の把握や診断はとても大事ですが、適切な治療や支援を行うためには、症状の意味や役割を考え、その人の生活環境や生活史を理解することもとても大切であることが繰り返し述べられていて、考えることが多かったです。
治療には本人の変化を目指す精神療法や薬物療法によるアプローチと、環境を本人に合わせるアプローチがありますが、前者にばかり捉われて、後者の視点が抜けていることもあると思うので、気をつけたいです。
また、40年の経験をもつ著者でさえ、臨床の力が上達しているのか?と疑問に感じ、対処の道筋が見えてくるからこそ、その分診療がしんどくなったり新鮮な目や熱意が擦り減っていくというのは、悩み続けてきた精神科医だからこその考えだと思いました。
・「これが正しい」というのではなく、「こんなふうに考えられるかもしれない」と患者さんを理解する視点を増やしていく
・安易に「その気持ちわかりますよ」とか「大変でしたね」というのは支持にはならない。支持とは、相手の悩みや苦しみを想像することから始まり、治療者が安易に分かった気持ちにならないこと、分からないところから出発することが大切
優しい眼差しで悩みながら臨床を続けてきた著者の経験が語られている本書は、とても有益なものだと思います。
精神科医という仕事: 日常臨床の精神療法