現場から考える精神療法
村上伸治(著)
村上先生が経験した精神疾患の実例と、そのやりとりが丁寧に描かれていて非常に勉強になりました。
日常の挨拶、声かけ、距離のとり方、診察、問いかけ、許可や禁止など、直接的な治療行為とみなされないような行為においても、精神科医が臨床の場で患者に心理的影響を与えないでいることは不可能であり、だからこそ、それらの因子もうまく把握した上で精神療法を行う必要があるという考え方は共感できました。
それぞれの事例も分かりやすく紹介されていて、登校拒否の際に行ったことの説明も非常に分かりやすかったです。
・登校しようとする「頭」や周囲と、引きとめようとする「体」が壮絶なバトルを繰り広げていて、体側が劣勢になるとものすごい症状が次々に出現する。この「頭 vs 体」のバトルに親も参加することで、さらに修羅場となってしまう。だからこそまずは冷静な観察が必要で、どんな時に苦しいか、休日はどうか等を探りながら、本人には一緒に謎解きをする協力者になってもらう
そのほかにも、
・話を聴いてもらえたと思う工夫
・解決に向けて何かをしていると本人が感じるような介入
・相談するとよいことがあると理解してもらうための作戦会議
など、実際の臨床で使える細かい工夫も随所に紹介されていました。
治療がゆきづまったときに「おもしろくなってきた」、「逆転のチャンスだ」、「何か今までしてこなかった発想は?」とつぶやくことで、今まで固執していたものと違うやり方を考える『窮すれば通ず』の考え方は好きでした。
中井久夫先生の「医者ができる最大の処方は”希望”である」という言葉があり、ゆきづまりが希望になるという考え方を忘れずにいたいです。

現場から考える精神療法 うつ、統合失調症、そして発達障害