なんで僕に聞くんだろう。(幻冬舎)
幡野広志
2017年に多発性骨髄腫を発病し治る見込みがない著者が、真摯に、誠実に、人生相談に応える実話で、心に響きました。
「悩み相談で一番大切なことは、相手の答えを探ることだ。答えは悩む言葉のなかに隠されていて、悩み相談は相手を分析する作業だ。男性がやりがちな「問題解決」だけでも、女性がやりがちな「共感」だけでも足りないのだ。この二つがうまくミックスされたものが悩み相談に必要だとおもっている。」
著者のこの言葉は悩み相談の本質を突いていると思いますが、これがどれほど難しいことか。
「言葉で人の歩みを止めることも、背中を押すこともできるならば、できる限りぼくは背中を押す人でありたい。」
この言葉に象徴されるように、相談者に共感しつつも時に厳しく、時に鋭く問題の本質に迫る著者の言葉は、じーんと胸に響くものが多かったです。
なにかに悩んだとき、立ち止まったときに、背中を軽く押して「君ならきっと大丈夫だよ」と笑顔で言われたら、どんなに心強いか。
何度も読み返したい一冊でした。
以下に、特に印象に残った言葉を抜粋しました。
・ガン患者さんに安易に声をかけるのはリスクの高いことです。声をかけるのではなく、ガン患者さんの声に耳を傾けることが正解なんです。なぜなら患者さんは話を聞いてほしいからです。そして否定せずに、できる範囲でやりたいことの手伝いをしてあげてください。否定されるって本当につらいのよ、やりたいことや生きがいを奪われるぐらいなら死にたいもん。
・対応力だとか共感力だとかコミュニケーション能力だとか、いろいろありますけど、ぼくは問題解決能力が大人になるうえで必要な力のひとつだとおもっています。こぼれないコップを使えば失敗することもなくて簡単なんだけど、どんなに注意しても失敗やトラブルって絶対に起きるので、大切なのは解決する能力です。
・子どもが選ぶべきことを親が選んでしまうと、子どもが大人に成長したときに自分で選ぶことも自分で考える力も培われず、失敗を恐れて行動しない、好きなことや自分がやりたいこともわからなくなってしまう大人になります。失敗をさせないことが、子どもの人生を壊す行為だとぼくはおもいます。子供のためをおもってのことかもしれないけど、とても優しい虐待です。
なんで僕に聞くんだろう。 (幻冬舎文庫)