ピアノマン: 『BLUE GIANT』雪祈の物語
南波 永人 著
「ジャズの魅力を同世代の多くの人たちに知ってもらいたい」
そんな想いで日本一のジャズクラブのソーブルーに十代で出演することを目標にピアノを弾き続ける沢辺雪祈とその仲間たちの物語です。
ただ上手く弾くだけではなく、もっと先にある階段を探し、本物のソロを弾くこと、流れるような即興(インプロ)を実演したい、という雪祈の熱い想いが随所に伝わってきて心が熱くなりました。
雪祈とバンドを組む、サックスの大、ドラムの玉田との喧嘩や友情も十代らしく青春を感じさせるもので、読んでいて楽しかったです。
松本のジャズバーで世話になった店長、大学のジャズ研究会のメンバー、ご縁のあったプロのプレイヤーたち、練習場所を提供し続けてくれたアキコさん、子どもの頃からピアノ教室に通っていたアオイちゃんなど、多くの人たちに支えられ、感謝の気持ちを忘れず全力疾走し続ける雪祈を応援したくなりました。
本書では、特にジャズの演奏を表現する語彙がものすごかったです。
ただすごいのではなく、イメージが具現化されて伝わってきて、自分がその場で演奏を聴いているような気持ちになりました。
個人的には、雪祈たちのファンの豆腐屋のおじさんの言葉が印象的でした。
「豆腐もさ、毎日同じじゃないんだよ。日によって微妙に作り方を変えるし、実は味そのものも、もっと良くしようとしているんだ。でも、なかなか良くならないし、少し変わっても気付くお客さんはほとんどいなくて。そういうのってさ、苦しいだろ?
でもそれを続けるのは、実は素敵なことなんじゃないかって思うんだ。誰も見ていないところで真剣であり続けるって大変だけど、格好いいはずだ。君の音にもそんな感じがしてね、勇気が貰えそうだって思ったんだ」
豆腐屋のおじさんの言葉をヒントにして、ひたすら考えて、ひたすら弾いて、ひたすら苦しんで悩み抜いて、もがき続けた末に辿り着いた雪祈の演奏は心が震えました。
ピアノマン 『BLUE GIANT』雪祈の物語