藤尾秀昭 (著)「1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書」(致知出版社)からの紹介です。
落語家・三遊亭圓歌氏の「うさぎはなぜかめに負けたのか」という話が印象に残ったので、ご紹介いたします。(以下、本文から引用)
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私が、笑いを交えながら人生や経営、子育てなどについて、私なりの考えを盛り込んだ、いまの落語や講演のスタイルを確立したきっかけを与えてもらったのは、遠縁に当たるジュポン化粧品本舗の故養田実社長です。
養田社長から教わった忘れられない話があります。
私が真打ちになったのは昭和62年5月。
林家こぶ平さんと一緒の昇進でした。
真打ちが発表されると、二人がいる部屋に一斉にマスコミが押し寄せたのです。
ところが、フラッシュを浴びたのはこぶ平さんだけ。
数メートル横に私がいたのですが、どこの社も見向いてもくれませんでした。
考えてみれば、こぶ平さんは正蔵、三平と続いたサラブレッド、一方の私は、いわば落語界には何の縁もない田舎生まれ、田舎育ちの駄馬でした。
私はくやしくて涙を抑えられなくなって走って外に飛び出し、電車に乗りました。そこに偶然にも養田社長がいたのです。
「歌さん(※当時は三遊亭歌之介)、浮かぬ顔してどうしたんだ」
と聞かれ、私は理由を話しました。
すると養田社長はこう切り出したのです。
「うさぎとかめの童話があるだろう。うさぎは、どうしてのろまなかめに負けたのか。言ってごらん」
私は答えました。
「うさぎにはいつでも勝てると油断があったのです。人生は油断をしてはいけないという戒めです」と。
養田社長は
「本当にそう思っていたのか。零点の答えだ」
と語気を強めて、静かにこのように話したのです。
「かめにとって相手はうさぎでもライオンでも何でもよかったはずだ。なぜならかめは一遍も相手を見ていないんだよ。
かめは旗の立っている頂上、つまり人生の目標だけを見つめて歩き続けた。
一方のうさぎはどうだ。
絶えずかめのことばかり気にして、大切な人生の目標をたった一度も考えることをしなかったんだよ。
君の人生目標は、こぶ平君ではないはずだ。賢いかめになって歩き続けなさい」
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これは非常に勉強になる考え方でした。
私もうさぎがかめに負けた理由は、
「油断や慢心、いつでも勝てるという思いがあって手を抜いたから」
だと思っていました。
誰かと比較せず、今自分ができることを一歩一歩着実にこなしてくことで目標に近づいていくことの大切さが身に沁みました。
私も誰かと比べたり、目先のことばかり考えるのではなく、長い目で見て人生の目標や在り方を考えていきたいと思いました。

1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書