認知症の私から見える社会 (講談社+α新書)
丹野 智文
認知症と診断された当事者たちが何を求めているのか、何人もの当事者と触れ合い、自らもアルツハイマー型認知症と診断された著者が語る認知症患者の本音をまとめた一冊です。
「おわりに」にも記載されていますが、本書を書くことは本当に勇気が必要だったと思います。
認知症当事者の意見をきちんと聞いてほしいといっても、「認知症だからできない」と決め付けられて、制限や監視の環境で暮らさざるを得ず、当事者の気持ちを理解してもらえないという主張。
そんなことを言うと、「一生懸命介護している家族や支援者の気持ちを考えろ!」と怒りの感情をもつ人がいるという考え方ももっともです。
認知症というと悪いイメージが先行し、まだ進行しておらず色々なことができる段階においても家族の心配や安心のため「認知症 = 介護」とされてしまう現状。
そんな現状に、認知症当事者の皆が介護が必要なわけではなく自分でできることもあるので、当事者と相談しながら必要な支援や今の生活を維持する工夫を考えてほしい、それが著者の切なる願いだと思いました。
認知症と診断された後、最も知りたかった情報は、
「診断前の今までの生活をどのようにしたら維持できるかということ」
という著者の思いとは裏腹に、介護保険ばかりすすめられ、受けられる支援だけの話になったり、何も分からなくなり寝たきりになってしまうという不安な情報ばかり与えられるというのは、まさに現在の認知症の問題の本質を指していると思いました。
以下に特に印象に残った内容を抜粋しました。
・認知症患者が困るだろうことを家族が先回りして何でもやってあげると、自分で工夫して考えることをしなくなる。その結果、最後には一人で何もできなくなってしまい、家族に負担をかける当事者となってしまう。子どもの成長と同じで自分で考えて行動して、失敗して工夫するという経験も必要。
・認知症という病気をオープンにする時には、「できること」、「できないこと」、「やりたいこと」の3つを伝えることにより、認知症の当事者が家族や支援者にどんな対応を求めているのかがよく分かる
・認知症を予防したり、進行を遅らせたりすることも大事だが、社会にとっての希望は「認知症になっても安心して暮らしていけること」でなくてはならない。
認知症当事者の気持ちが置き去りにされることなく、また、一生懸命介護している家族や支援者への感謝や労いを忘れず、当事者のために何が必要か、皆で考えるきっかけにしたい一冊でした。
認知症の私から見える社会 (講談社+α新書)