ぼくらの心に灯ともるとき(創元社)
青木 省三
青木先生の書籍は何冊か読んでいますが、本書は精神科医としてではなく、バーのマスターを中心に、社会や地域での繋がりという形での支援を描いた小説となっていました。
「変わった人や個性的な人が病気や障害として浮かび上がるのではなく、社会からはじき出されるのでもなく、その人なりにその人らしく人生を楽しんで生きていける街や社会になれないか」
そんな著者の想いが詰まった小説になっていて、えんじ色自転車娘、にわかお遍路のお二人さん、静かな男とマシンガン男、トラック野郎、大工、アメリカ古着屋、自転車屋のおじさん、骨董屋のおばあちゃん、お寺の和尚さんなど、様々な個性溢れる人物が登場します。
みんな生きにくさを抱えていたり、何かに迷っていたりしながら、ジャズバーに入ってマスターと話をすることで、色々なことに気付いていくという展開です。
昭和の古き良き時代を彷彿とさせる挿絵も魅力的で、その人らしく人生を生きるヒントが満載の一冊でした。
以下に印象に残った言葉を抜粋。
・何かをするか、しないか迷うときは、僕はいつもするほうを選んできた。それがよかったどうかはわからないけどね。しないことは簡単だよ。でもしない限り、何も変わらないでしょう?何かをすると、何かが変わるからね。いいことも悪いこともあるけど。だから僕の場合は、ということで、お勧めではないけどね。
・「あんたも頑張ってるね。僕も頑張らないとね」と、逆に励まされたりすることもある。一見助けているように見えて、自分も助けられていると言うか…ひょっとしたら、生きるというのは、悩みや苦しみを周りのみんなと互いにシェアしながら、毎日をやりくりしていくことかもしれない。
・「しんどいけど、何とかやっていけるかい?」高校を卒業したら、胸を張って家を出て行けるぞ。行きたいところに行って、やりたいことができる。一番安全な手をは、進学”家出”じゃ。その間に困ったことがあったら、ここに来なさい。私がいるからね。
・その人が手にとって物が輝くには、満足感が大切なの。あんたのカクテルだって、目の前でシェーカーを振りミントか何かを乗せると、魔法がかかったように美味しそうって思うわけよ。あんたの腕も大事だけど、その雰囲気ね。自動販売機から、ポトンッと缶に入ったカクテルが出てきても、値打ちがないでしょ。ジャズが流れているこのバーで、あんたが目の前で振って作るカクテルだからこそ、美味しいと感じて飲むわけよ。あんたの腕は付けたし程度。
ぼくらの心に灯ともるとき