いたみを抱えた人の話を聞く

いたみを抱えた人の話を聞く
近藤 雄生 , 岸本 寛史 著


あとがきに記載されていますが、本書のタイトルの「いたみ」は平仮名で書くことで体の痛み、社会的な痛み、精神的な痛みなどを分けずに包含しており、さらに「悼み」や「傷み」といった意味も含まれていて、幅広い概念での「いたみ」に関して語られていました。

身体の問題を扱う医学と心の問題を扱う臨床心理学では、目的も方法論も異なりますが、本書に登場する岸本先生は一人ひとりの患者に寄り添いながら、両方の視点を大事にする臨床を手探りで行ってきており、その言葉には説得力がありました。

また、聞き手の近藤氏もご自身が吃音を抱えているからこそ、相手がどんな気持ちで話しているのか、想像力を働かせながら丁寧に岸本先生の話を聞きつつ、自分の過去の経験とも照らし合わせて、寄り添うことを大切にしていたと思います。

 

 

相手の言葉に耳を傾ける時には、こういう場合はこうすればいい、というマニュアルのようなものを身につけるのではなく、その都度どう対応するか考えながら、客観的に患者さんと自分自身のやり取りを見つめるという意識をもつという姿勢は勉強になりました。

また、対話をするときの意識として、「意識の水準を少し下げて話を聞く」という話もおもしろかったです。

会話の中に出てくる話題に、その人の気持ちや状態が反映されうることを見逃さず、細部までしっかりと思いを巡らせるのはとても大変なことだと思いました。

患者さんが抱える不安や心配に対して、決して決め付けたり安易な言葉かけをせず、敬意をもって接しながらも、他者である自分に簡単に理解できるものではない、分かった気になってはいけないという謙虚な姿勢を貫きとおす岸本先生の姿には胸が打たれました。

 

 

以下、印象に残った内容を要約して抜粋。

・一見関係ないと思われる語りをつなげて何かを見ていくことについて、「コンステレーション」という言葉が使われる。コンステレーションとは星座という意味で、まさに星座を作るように、語りの中にある点と点からなんらかのパターンを見つけていくことで、話を聞く上で大切な視点である

・医療者と患者とで筋書きや方向性が異なる場合、必ずしも医療者が正しいわけではなく、患者さんとは観点が違うと受け止める。ではどうすれば、そのずれを修復できるかと「葛藤を抱える」ことが対話をする上でとても大切で、そうしていく中で新たな道筋が見えてくると思う

・エビデンスが大事だと強調されると、エビデンス的な観点からは価値を見出しづらい患者の語りが軽視されるケースは多い。エビデンスはあくまでも統計学的な観点からの考え方であり、それに対してNBM(ナラティブ・ベイスト・メディスン)では個を尊重し、個別性に重きを置く。その人の話をよく聞き、気持ちを近づけて想像することを通じてしか見えてこないことが多くある

 


いたみを抱えた人の話を聞く

【この記事を書いた人】

photo 西ヶ原四丁目治療院 院長の佐藤弘樹(さとうこうき)と申します。
はり師・きゅう師・あんまマッサージ指圧師の国家資格を持ち、病気の治療、予防のお手伝いをしています。

たった一人でも、「治療に来てよかった」と満足していただき、 人生を豊かに過ごすお手伝いをすることを理念としております。
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