病を引き受けられない人々のケア: 「聴く力」「続ける力」「待つ力」
石井 均 (著)
糖尿病という病気は初期には症状はありませんが、進行すると下肢や腎臓、目に大きな障害を引き起こします。
しかし、初期には症状がないことから医療の検査結果で「糖尿病患者にさせられる」側面を持つやっかいな病気です。
そんな糖尿病とどう向き合っていくのか、どう引き受けていくのかという考え方が、臨床家や哲学家との対談で語られているのが本書です。
本書は糖尿病に関わらず、どんな病気や疾患においても患者さんと医療従事者がどう向き合っていくかのヒントがたくさん詰まっていて勉強になりました。
糖尿病だけでなく、がんや依存症などでもよいかもしれませんが、患者さんの身体感覚を通して直接的に理解・納得できる病気になっていない場合、患者は自分ごととして考えられないという気持ちはよく分かります。
ただ、医療者としてはそのままにしておくわけにもいかず葛藤が生まれます。
治療には食事や運動、注射などに関して、患者さんのモチベーションを上げるようなコミュニケーションも必要であり、患者さんとどう接していくか、どんな心構えが必要なのか考えさせられることが多かったです。
糖尿病以外の病気においても、医療者任せにしている患者さん、患者さん任せにしている医療者、どちらの構図もあると思うので、お互いが当事者意識をもって一緒に解決していく姿勢が問われていると思います。
以下に印象に残っている言葉を抜粋
・河合先生との対談
私は先生の言われるとおり、食事療法もきちっとやるしインスリンも打つ。それで血糖をいい状態に保っている。だけどな先生、私、何が楽しみでこれを続けていくのか、何が楽しみで生きていくのかが分からん。それを教えてくれんか?という質問に対する河合先生の答え。「残念やけど、教えられない。教えられないけど、あなたと一緒に歩むのです」ということをぴったりいえたらいい。それが伝わると、患者さんは自分で必ず見つけられる。「自分にはできないけど、楽しみを見つけられないあなたがどんなに辛いかはわかる」という辛いことを共感する
・中井先生との対談
糖尿病は治らない、100%を患者に要求する、そしてドロップアウトする。悪循環ですよね。毎日100点を取らなきゃいけないなら、私だってドロップアウトする。目標を、人間が耐えられる程度の不規則性を、どれだけ許容する治療ができるかというふうにしたらいい。私は若いドクターには「現状維持が既にメリットである」と言っています
希望は意外なところに潜んでいること、個々人の生活に即して違うこと、しかし、とにかく医師は希望をも処方しなければなりません。「医師」そのものを処方せねばなりません。そして「祈り」をも。処方箋を渡すときには「効きますように」、「うまく働きますように」くらいは言い添えてください。不確定要因が大きいほど、医療者は勇気をもちましょう。
・中村先生との対談
知ることによって、「なるほどそうなのか」と納得し、愛おしくなることが「愛づる」ということで「愛する」ということではない。愛することは難しいだろうけれども、「なるほどそうなのか。しょうがないやつだけど、一緒にやっていくか」みたいな気持ちにはなれるのではないかと思うのです。同じ知るでも脳に蓄えられたという知り方と、心にストンと落ちたという知り方がありますよね。心にストンと落ちる知り方をしたときに「愛づる」が生まれる
病を引き受けられない人々のケア: 「聴く力」「続ける力」「待つ力」