患者の話は医師にどう聞こえるのか 診察室のすれちがいを科学する(みすず書房)
ダニエル・オーフリ
医師と患者のコミュニケーションの問題を徹底分析した良書でした。
・同じタイミングで同じ量の薬を投与されたにも関わらず、知らないうちに点滴された患者群よりも、注射を医師自身が手作業で行うようにした患者群のほうが鎮痛効果た常に高い
・医師が行う儀式として、ベッドサイドまで来て患者の痛みを認め、注射器に薬を吸引し、患者に見えるように点滴ラインに注入し、予想される効果について話し合い、実際に誰かがそばにいて気にかけ心を配ることは、薬の量を二倍にすることと同じくらいの痛み緩和効果があった
医師と患者のコミュニケーションが大事とは誰しもが思っていることですが、こうした具体的なデータがいくつも示されると説得力があります。
プラセボが発揮されるための必須要素として、医師と患者のコミュニケーションがあり、その効果として不安の軽減や期待感を高めること、患者と一緒に治療の方向性を決めることが必要だという話も共感できました。
また、「害をなすなかれ」の章で紹介されていた、ミスをした時にはミスを犯した本人がミスを認め、責任をとり正直に謝罪し、その誠意がきちんと患者に伝われば訴訟のリスクは減るという話は興味深かったです。
ミスを認めて謝罪することがどれほど困難なことであるか、ミスを恥じる気持ちや自信の喪失など、受け入れがたいことがあると思いますが、患者が自分たちのことをいかに気にかけてくれていると感じることが重要であることがよく分かりました。
最後に、「チーフ・リスニング・オフィサー」の章で紹介されていた、オランダ政府が傾聴の医療保険コードを承認したという話は驚きました。
話を聞くことは診察上必要ではありますがが、それ自体で報酬を請求できないため、処置や検査のほうが優先されてきました。
しかし、話を聞いて意見を交換することが検査と同じように保険請求する価値があると判断されたことは、コミュニケーションが医学に必須であることを認めることの大きな一歩だと思いました。

患者の話は医師にどう聞こえるのか――診察室のすれちがいを科学する