今回は、『いつまでも消えない「痛み」の正体』という本を紹介いたします。
いつまでも消えない「痛み」の正体
牛田享宏 著
日本人のおよそ5人に1人は3ヶ月以上痛みが続く慢性疼痛を抱えており、医学的に十分に対処しきれていない理由を説明するとともに、長引く痛みとどう向き合っていくのかを伝える良書でした。
痛みというのは主観的なもので、ちょっとした怪我でも強い痛みを感じる人がいればほとんど痛みを感じない人もいて、個人差がかなり大きいものです。
2020年に40年ぶりに国際疼痛学会の痛みの定義が改定され、以下のように定義されました。
「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」
これは組織損傷がなくても、不快な感情やそれにつながる体験も痛みになることを示しており、脳に刻まれた記憶から痛みを感じることも様々な実験結果を元に説明されていました。
ではどうすれば慢性疼痛を克服できるかですが、まだこれといった対処は見つかっておらず、こんなことをしていくとよさそうだという内容になっていました。
・痛みをゼロにしようと考えず、痛みに意識を向けないよう心がける
・原因にこだわることをやめ、治らないかもしれないといったん受け入れてみる
・薬に頼ることを減らし、痛みがあってもできた体験を記録する
・運動することで、筋力がついて痛いところが守られたり、脳内モルヒネが分泌されて痛みを感じにくくなる
これは患者さんだけでやるのではなく、医療従事者がしっかりと話を聴いて、身体面だけでなく、精神的にも社会的にも患者さんをサポートしていく医療が広まるとよいと思います。
現在は著者がセンター長をしている愛知県の疼痛緩和外科・いたみセンターで慢性疼痛の治療が行われているようですが、こういった取り組みが全国に広がって慢性疼痛の治療が少しでも前進すればいいなと思いました。
いつまでも消えない「痛み」の正体