花は咲けども噺せども 神様がくれた高座 (PHP文芸文庫)
立川談慶
会社員をやめて落語家になり、長い前座修行を経て、真打ちを目指して奮闘する男の笑いと涙の心に沁みる人情物語です。
落語を通じて、義理や人情、恩や感謝の大切さを学びつつ、
「お互いダメな人間同士、一緒につまづきながら仲良くやろう」
という、人間の業の肯定を描いた良書でした。
信じられないドジをリアルにしちゃってもそれが許されるような社会、そんな人にも居場所を与えて包んでくれている落語の世界が分かりやすく描かれていて、落語を知らない人でも読みやすい内容だったと思います。
真打になるべく修業を続ける錦之助が、路上やサウナなどで行う青空落語、地方公演、老人ホーム、中学校の落語会などを通して、色々な人の気持ちや情に触れることで成長していくと共に周囲の人を幸せにしていく様子は微笑ましかったです。
特に印象に残った言葉を以下に抜粋しました。
・やっぱり人間、苦労しなきゃダメなのかもね。あなたがあれほど苦労していた前座修業時代って、人工的に苦労を認識する期間だったのかもよ。人間の陰の部分をわきまえないとお客さんを納得させる落語なんてできやしないんじゃないかな。
・落語家も相撲取りもさ、稽古が仕事なのかもね。本番の取組とか高座なんて、ただの集金活動だよ。かいた恥という自分のしでかしたマイナスな出来事は、上手くなるための伏線で、あとからどう回収するかと考えたほうが前向きになれるような気がする。
・下から目線ってさ、なんだかすべてが自分より上にいるから、すべてがすげえんだなって思える目線なのかもな。謙虚とは違うけど、「みんなすげえじゃん」って思える感じかな。上から目線だと相手の頭した見えないけど、下から目線だとさ、相手のすべてが見えるんだよ。人生、下から目線。
花は咲けども 噺(はな)せども 神様がくれた高座 (PHP文芸文庫)