「いのちを呼びさますもの」(稲葉俊郎 著)からのご紹介です。
心臓の専門医である東大病院医師、稲葉俊郎氏が医療やいのちの本質について説明した本です。
その中から、「道」(どう)がもたらす智慧の話が印象に残りました。
本来、人の体は競い争うために酷使するのではなく、体や生命の全体性や調和のあり方に感動し、感謝しながら与えられたものを大切に使うものだと著者は述べています。
現代スポーツの過激なトレーニングは、体を疲れさせて筋肉を肥大させるような無理な使い方をしていることが多く、ちょっとバランスを崩すと大怪我をします。
意識的に体を筋肉で制御するのは、若い時なら多少の無理は利きますが、老いとともに必ず限界がきます。
ではすべきか。
日本の古の世界では、「いかに疲れずに体を使うか」という身体技法が大切にされ、それが伝統芸能や「道」の世界の智慧として今でも残っています。
茶道、書道、華道、柔道、剣道、合気道などの「道」や、「道」の本質を共有する、相撲、少林寺拳法、薙刀、日本舞踊、歌舞伎、狂言などです。
伝統に残る古の体の使い方は、いかに体を疲れさせずに動かすか、最小限の力でゆっくり、体を愛でながら動かすことに特徴があります。
骨格の構造を理解し、筋肉を必要最小限の使用に留めながら使用するため、経験や技ことが重要な要素となり、歳を重ねるほど、動きの質が高まり、体の動きは深みを増していきます。
「道」の世界で受け継がれてきた型や所作などの体の使い方、いわゆる身体言語をどのように考えるのかが、老いと向き合っていくうえで重要な要素になると思いました。