善医の罪(文藝春秋)
久坂部羊
家族も同意したはずの尊厳死が、嫉妬や保身、曖昧な記録から殺人罪として告発されることになるまでを描いたリアルな医療小説です。
善良な医師がどんなに誠実な対応をしても、学歴や待遇で嫉妬する周囲の人間に足を引っ張られる話の好例だと思いました。
事の発端は、白石ルネというオランダ人とのハーフである一人の医師に嫉妬した、医師と看護師が白石の弱みを握ろうとしたことから始まります。
そこから様々な思惑が入り混じって醜い争いに発展していきます。
ある医師は自らの出世欲に駆られ病院を脅迫し、
病院長は自らの保身に走り、
看護師は嘘の指示をでっちあげ、
遺族は安楽死の告発を鵜呑みにして大金をせしめようとし、
週刊誌の記者は世論を煽って事実を捻じ曲げて伝える。
それぞれの関係者が自らの利益のためだけに動いた結果、誠実に対応した医師が起訴される事態となると、現場の医師が救急蘇生をしなくなる事態も考えられるという難しいテーマが内包されていました。
自分がした医療行為の正当性と患者や遺族を信じ続けるお人好しの白石医師の想いが切なかったです。
誠実な医療とは何なのか、患者のための医療とは何なのかを考えさせられる小説でした。
善医の罪 (文春文庫)