身体は考える 創造性を育む松聲館スタイル
甲野 善紀 , 方条 遼雨 著
本書の前半は「身体」について方条氏の身体観が述べられていて、後半は甲野氏と方条氏の身体の対談、という構成です。
現代人はまず論理的に理解しようとして、分からないを理由に先に進むことをやめてしまいます。
本書ではそれを「100点思考の呪い」、「論理の呪縛」と呼び、とにかくやってみること、体が先行して体験することを推奨しています。
理屈抜きで「できる」をどんどん増やしていくと、周回遅れで「わかる」がやってくる。
理由は説明できないが衝撃を受けた、言葉では説明できない感情がわきあがってくる、といったように、理解よりも先に感性、感覚が吸収し始めているものほど、自分の栄養になるものという考え方はとても共感できました。
他にも印象に残る内容が盛りだくさんでした。特に気になった内容を以下に抜粋します。
・人を育てるということの本質は「自分の存在価値を無くしていく行為」。人を育てることの最終目標は育てた相手を「一人前」にすることであり、一人前とは「自分がいなくても一人でやっていける人間」であるが、多くの大人が自分に依存さえる方向に育ててしまう
・自分の意志による選択に伴うのは、そこに至るための考察、可能性の予測、経過の観察、結果の検証、反省、それらの経験の蓄積、蓄積の転用といったもの。こうしたサイクルは、知識やセオリーを無思考、無条件に使用することと違って、「自分の頭で考える」という本当の知性を磨いてくれる
・体のあらゆるパーツにも単独の意思や機嫌がある。脳はその取りまとめ役に過ぎない。心の本体は内臓にある。本体である腸=本音に、新参者である脳=建前が増築されて、綱引きをしながら思考している
後半の対談もとても学びが多い内容でした。
武術をしていく上で、ただ基本を繰り返すのではなく、様々な視点から独自の工夫や気付きが語られていたのは貴重でした。
「鏡を見て稽古をしたら突然技ができなくなった」という話から、視覚的な身体と内部感覚的な身体のことや、下手に身体構造などの知識に影響されると頭で考えるのが優先されて動きがぎこちなくなるといった話があり、とても勉強になりました。
身体レベルで感じていることに関して、思考のでしゃばりをどかして、深いところにある声みたいものを聞いていくことで、感覚が向上して思考を超えた身体感覚が生まれてくるというのも、感覚的に言いたいことは伝わってきました。
もちろんその境地に至るのは相当な鍛錬が必要だと思いますが、それを分かりやすい言葉で丁寧に例を挙げながら説明してくださっているのはとてもありがたいです。
「身体とは何か」をとてもよく考えさせられる一冊で、何度も読み返したい内容でした。
身体は考える 創造性を育む松聲館スタイル