きみの体は何者か(筑摩書房)
伊藤 亜紗
本書は吃音(どもるとも言う)という症状がある著者が、自分の体とどう向き合ってきたのかを、自分自身の言葉で丁寧に説明した良書でした。
まず、第一章から思いもよらない言葉で引き込まれていきます。
今の自分の体は自分で選んだわけではく、体は自分の思う通りにならない。
でも、「思い通りにならないこと」は、「思いがけないこと」でもある。
全てが思い通りになる世界って、台本に書かれた通りにしか物事が進まないから、思い通りになることは案外つまらない。
これに対して、思い通りにならないことは冒険で、きみを想定外のところに連れ出す。
この偶然与えられてしまった体をどう生きるか。
なるほど、言われてみればその通りで、そんな思い通りにならない自分の体とどう折り合いをつけていくか、そのヒントが具体的に示されていて自分の体の身になって色々なことを考える著者の考察や工夫がとても勉強になりました。
まず、しゃべるってすごいことで、特に考えずにやっていることでもそれは体が自分で、少しずつ、長い時間をかけて勝手に身につけていったものであるということ。
「しんぶん」の「ん」と「ぺんぎん」の「ん」で、同じ「ん」なのに口が閉じているか開いているか違うのですが、それは勝手に身についていることでそんなこと考えたこともなかったので、新しい発見でした。
ほかにも、独り言だとどもらないのに、誰かに向けて発した言葉だとどもるという不思議。
相手とシチュエーションによって吃音の症状が出るか出ないかが変わるのです。
つまり、「体は置かれた状況によって状態が変わる」というのはおもしろい考え方で、吃音以外のほかの症状でも相手や場面を工夫することで状態を変えることができるというのは思いがけない気付きでした。
さらに、自分の体のことを相手に理解してもらうために、自分の実感を言い表すメタファーという喩えを探すことで、体の解像度があがって体と対話できるようになるという工夫。
たんに知識として頭で理解するのではなく、自分の体で起こっていることを実感として言語化することで、他の人にも共有できるというのは素晴らしいことだと思いました。
「この本は、きみが自分の体と向き合うことで、新しい世界を発見するのを手助けする本」
「思い通りにならないことが、思いがけない出会いをつれてくる」
という言葉が特に印象的に残りました。
自分の体と向き合ってみたい、体のことを考えたい人におすすめの一冊です。
きみの体は何者か ――なぜ思い通りにならないのか? (ちくまQブックス)