パラ・スター <Side 百花>(集英社文庫)
パラ・スター <Side 宝良>(集英社文庫)
阿部暁子 著
自分を救ってくれた親友の宝良が交通事故で車いす生活になってしまい、そんな宝良を窮地から救い出すとともに、車いすエンジニアを目指す百花。
無愛想で愛嬌もないが、人一倍負けず嫌いで、百花との約束を胸に車いすテニスでのパラリンピック出場を目指して奮闘する宝良。
車いすテニスという競技を通して、二人の女性の成長と友情、仕事に対するやりがいや誇りを描いた物語です。
車いすエンジニアの百花、車いすテニスプレーヤーの宝良、それぞれの側面から描かれていて、読み応えがありました。
まず百花サイド。
ユーザーにとっては相棒とも言える存在である車いすの製作に情熱を燃やす藤沢製作所のエンジニアたちの仕事に対する熱い想いや、車イスを作ることに対する誇りに胸が打たれる場面が多かったです。
以下に、藤沢製作所の面々が話した中で印象に残った言葉を抜粋しました。
「ここにいいる俺たちはみんな立場は違うが、いい車いすを作りたい、それを使ってる人に笑ってもらいたいって気持ちは同じはずだ。必要としてる人がいるってんなら俺は職人として作りてえよ。最高の競技用車いすってやつを」
「仕事ってのは、人に集まるもんだからな。そいつがそれまでにやってきた過去の仕事が、次の仕事と人を連れてくるんだ。おまえもそういう仕事ができるやつになれ」
「ねえ、山路(百花)さん、時間がかかってはいけないの?仕事って、時間をかけて自分を育てていく行為でもあると私は思います。時間をかけなければ得られないものをひとつずつ手にして、懸命に磨いて、それを世の中へ還していく。仕事とはそういうものではないかしら」
そして、宝良サイド。
スランプに苦しみながらも、新しいコーチや車いすエンジニアとともに、車いすテニスに情熱を傾ける宝良の熱い戦いが見所でした。
「強いって、悩まないことでも、傷つかないことでもないんだと思う。それは、何度でも自分の弱さから立ち上がるってことなんだと思う」
自分が決して強くないことを知っている宝良が、自分と同じように車いすになってしまった小学生のみちるにかけた言葉は、宝良が自分自身に常にかけている言葉であり、自分を鼓舞するために必要な言葉なんだと思いました。
また、車いすテニス会の女王である七條玲が、車いすテニスに興味を持ってもらい、車いすでも普通にテニスができる世界を作っていこうと、ひたむきに頑張る姿も好きでした。
物語の終盤、宝良と百花が同じ場所に立つ機会が訪れるのですが、あえてお互いに声をかけず、全力で自分ができることをやる姿に、信頼関係が感じられました。
スポーツが好きな人には楽しめる内容だと思います。
パラ・スター 2冊セット