未明の砦
太田 愛 著
大手自動車メーカーの若い非正規工員の四人が警察の公安部に監視されているところから物語が始まっていきますが、序盤からおもしろくて一気に読みました。
なぜ4人が警察に監視される事態になったのかは中盤以降まで分からず、それでも不当な労働に苦しむ様子や、職場の仲間が見殺しにされる状況を放っておけず、様々な行動を起こしていきます。
警視庁警備局、公安部、所轄の刑事に加え、大手自動車メーカーの幹部、政治家、労働組合の相談員など多くの登場人物を巻き込んでいく展開はとても楽しめました。
労働法がどう遷移していったのか、なぜ派遣社員や期間工は契約期間が短いのかなどを学び知識をつけた4人が、言い合いや仲たがいしながらも、労働者の要求を実現するため、自ら考え、行動し、教えを請いながら立ち向かっていく姿に胸を打たれました。
本書の登場人物のはるかぜユニオンの岸本さんの言葉が印象に残っています。
「私たちは事の善し悪しよりも、波風を立てず和を守ることが大切だとしつけられてきた。今ある状況をまずは受け入れる。それが不当な状況であっても、とにかく我慢して辛抱して頑張ることが大事だと教えられてきました。同時に、抵抗しても何ひとつ変わりはしないと叩き込まれてきた。
しかし、おかしいことにおかしいと声をあげるのは、間違ったことでも恥ずかしいことでもない。声をあげることで私たちを不当に扱う側を押し返すこともできる。少なくとも、もうこうは言わせない。『誰も何も言わないのだから、今のままで何の問題もないんだ』とは。
声をあげる人が増えれば、こうも言えなくなる。『みんなが黙って我慢しているのだからあなたも我慢しろ』とは。
力のある人とその近くにいる人だけがより豊かになるのではなく、大勢の普通の人たちが生きやすい世界へ変えていくためには、力を持たない私たちが声をあげるところから始めるほかない。
ミステリ好きの方におすすめの一冊です。
未明の砦