師弟百景 “技”をつないでいく職人という生き方
井上 理津子 (著)
一子相伝でなく、血縁以外に門戸を開いている師匠と弟子のリアルな関係を、庭師、釜師、染織家、刀匠、宮大工など16組32名に取材した書籍です。
昔は、「見て盗め」、「背中を見て覚えろ」という職人気質だったやり方が、現在では『見て覚えるだけではなく口でも助言する』、『早くコツを掴めるようにする』というやり方に変わってきているのが興味深かったです。
時代の移り変わりにより、仕事量が減ってきている業種もあり、昔のようなやり方では職人が育たずにやめてしまい、その結果、技術が継承されないままになってしまうことが関係しているのかもしれません。
あまり助言し過ぎると本人のためにならず、言われたことしかできない職人になってしまうのも本末転倒のため、どこまで助言するか、そのあたりの匙加減は難しいと思うし、師匠の腕の見せ所だと思います。
それでも、本書に登場する仕事はいずれも長い下積み期間が必要な仕事ばかりで、一朝一夕で身に付けられる技術ではありません。
本書では、そんな職人仕事の様子や師匠と弟子の経歴、どんなことを考えて仕事をしているか、などが丁寧に描かれていました。
昔は商人の家や職人の下で、無給か少ない手当てで住み込みで働きながら仕事を覚える丁稚奉公が一般的でしたが、現在は高校や大学を卒業して就職して給料を頂いて仕事を覚えるのが一般的であり、時代の変化とともに職人仕事の在り方も変わってきています。
「最初は無給でもいいからこの技術を覚えて人の役に立ちたい、世の中にないモノを作りたい」といった想いがないと、職人の仕事は続かないと思います。
以下に印象に残った言葉を抜粋。
・我々は今生きている人間だから、今の感性で作品をつくるわけだけど、今ってなんだろうなと思うんだな。古典を知ると、それが見えてくるんだよな
・仕事はやらなきゃうまくならないから、やったもん勝ちだよ
・職人はディテールにばかり目を向けがちだけど、大切なのは、まず一歩下がって全体の佇まいを見ることだよ
今回取り上げられていたのはモノづくりの職人ばかりでしたが、落語家や作曲家、料理人、スポーツ選手、鍼灸マッサージ師など、モノづくり以外の職人の話も知りたいと思いました。
師弟百景 “技”をつないでいく職人という生き方