鉄の楽園(新潮文庫)
楡 周平
時代を先取りした社会問題をベースにした企業小説を書く楡周平さんの示唆に富んだ考え方が好きで、新刊を楽しみにしている作家さんです。
今回のテーマは途上国の高速鉄道導入と企業の教育機関の話でした。
発展途上国、経産省、中国、大手商社、専門学校、銀行など、様々な思惑がどのように絡みあっていくのか、最後までわくわくしながら読めます。
新しい技術が次々に登場して業務形態が変わる一方、必要とされるスキルを身につけることができず行き場のない社内失業者がどんどん増えている現状、ギムナジウムという、産学の場を行き来するような教育機関が必要だという話は非常に勉強になりました。
また、ハードだけ作ってソフトがない、つまり仏作って魂入れず、の状態である新規開発やインフラビジネスにおいて、いかに相手にとって役立つものにするか、そこに知恵を絞るのが今後のビジネスの肝になっていくという話も説得力があって共感できるものでした。
はり・きゅう・マッサージについても、手技や技術の勉強に偏りがちです。
常に新しいものが登場する現代社会において、もっと広い視野で学ぶ必要があると思うので、今後は様々な分野の勉強もしていきたいと思いました。
本書に登場する経産省官僚の美絵子の言葉で、
「できたらいいなと思うなら、できる方法を考えるべきだ」
というくだりは心に響きました。
こんなことができたらすばらしいだろうな。でもやっぱり無理かな。
と考えてしまうことでも、「どうしたらできるだろう」と考える習慣をつけることで、今すぐにできなくてもそのヒントを見つけて一歩一歩目的に近づいていくことは十分可能なのかなと思いました。
鉄の楽園(新潮文庫)