今夜も満月クリニックで
藤山 素心 (著)
夕方から夜だけ営業している、アンティークショップの中にある満月クリニック。
そこにいるのは大学病院で燃え尽きてしばし休養中の医師の赤崎で、診療は小児科、内科を診ていますが、やっていることは健康相談の仕事です。
本書は満月クリニックに来る患者の5つの短編集です。
①30代のワーキングマザーの腕のしびれ
②20代の新人女性社員の不眠と頭痛
③30代の育休中のSE男性のいびきと注意力散漫
④50代のライトノベル作家の手の痺れと同業の作家の訃報による不安
⑤40代女性の目のかすみ
街には病院やクリニックがたくさんありますが、患者さんの不安に向き合ったり、気になっていることを時間をかけて説明してくれる医師がどれくらいいるだろう。
そもそも何かあればすぐ病院へ、という患者さんが多すぎて一人ひとりに時間をかけることができなくなっていることが大きな問題ですが、本書では「健康相談に乗りますよ」という名目で、ゆっくり話を聞いて不安なことに答えてあげるというのが目的となっています。
まずは自分の話をしっかり聴いてもらえることが大切で、さらに自分がやってきたことを否定されずに、認めてもらえたり、褒めてもらえたりしながら信頼関係を築いていき、そして不安に思っていることに対するアドバイスがもらえること。
これが患者さんが求めていることだと思いますが、現在の病院やクリニックではそんな余裕はないところを、赤崎医師はとても誠実に対応していて、こんな医者がいたら相談したいと思う内容でした。
案外知られていない健康診断と人間ドックの違い、37度を超えると保育園を早退させられる理由、ワーキングメモリの話など、医療知識もきちんと書かれていたのがよかったです。
料金も初診料のみで○○加算といったものはなく、2910円に対する自己負担分だけ。
ただ、誠実な料金でもそれが最初に分からないため、患者さんは相談しにくいと思うので、そこは事前に提示しておくともっと安心できそうだと思いました。
患者さんが悩んでいるのは症状だけでなく、この先どうなるのかといった予期不安や、家族や職場の同僚に迷惑がかかるといった心配、真偽の正しくない井戸端会議やネットの情報への疑いなど多岐に渡っているのですが、それを和らげるには時間がかかるし、きちんと患者さんに向き合わないといけません。
この小説のような、そんな理想の健康相談が実現したら素晴らしいですが、現実ではなかなか難しそうです。
アンティーク店を経営する50代の女性オーナーの福尾も、過去に何かトラブルがあったようで、本書の終盤に少しだけその内容が明かされていました。
続編もありそうなので、楽しみに待ちたいです。

今夜も満月クリニックで (角川文庫)




西ヶ原四丁目治療院 院長の佐藤弘樹(さとうこうき)と申します。