月収

月収
原田 ひ香 (著)


世代が異なる6人の女性たちの月収をめぐる物語です。

年金暮らしで少し生活費がほしい、小説を書くために派遣の仕事ではなく別の収入がほしい、両親の老後のために定期的にお金を貯蓄・運用したい、パパ活でお金を貯めたい、お金には困っていないのでどう使うか考えている、介護の仕事では収入が少ないから事業をやりたい、それぞれの思惑があり、どうお金を増やしていくかが現実的で丁寧に描かれていました。

シルバー人材センター、新NISA、パパ活、ふるさと納税、不動産投資など、どれも実際に行われているものなので、馴染みがあったし、実際にどのようにやっているのか知ることができたのもよかったです。

 

 

年収を96万円以下にすれば、税金はほとんどかからず、健康保険も安くなるというのをうまく使っているケースも紹介されていました。

本当に色々なお金の稼ぎ方、運用の仕方がありますが、何のためにお金が必要なのか、「お金があること = 幸せ」ではないというのは本書を読んでいるとよく分かります。

 

 

本書の中で、自身がやっていた事業をきちんと整理して、一回り上の夫から相続した財産をどう使うか考えながら生きている鈴木菊子の言葉が印象に残りました。

・どんな仕事も、今この時じゃないとできないことがあると思うの。三十代の初めの今じゃないと書けないこともあるし、デビューして四年の今じゃないとできないこともある。何より、仕事の筋肉っていうの?そういうのも衰えちゃうかもしれないよ

 

 

・事業ってうまくいくことも、いかないこともほとんど選べない。人間というのは誰でも収入に関して、選べることなんてほとんどないのかもしれない。少ないことはもちろん、多いことも。できるのは努力するのをやめることだけ

・今の自分が少しでも癒されるのは、お金ではなく、本当に自分の身体を使った行為だけのようだということがわかった

お金について考えたい人におすすめの一冊です。

 


月収

俺たちの箱根駅伝

俺たちの箱根駅伝 上・下
池井戸 潤 (著)


今年もまた箱根駅伝の季節が近づいてきましたので、箱根駅伝にまつわる本の紹介です。

箱根駅伝を「名門校の優勝争い」という視点ではなく、「学生連合チームとしてのプライド」と、「箱根駅伝を放送する責任を負ったTVマンたちの奮闘」という、別の側面から描いた感動の物語でした。

学生連合はどんなによい記録を出しても正式記録に認定されず、チームとしての一体感も目的もなく、モチベーションを保つのが難しい。

そんな中、学生連合チームがどんな準備をして、一体感やモチベーションをあげていくのか、読み応えがありました。

 

 

上巻では「考える力」が繰り返し語られていました。

レース前にどんなに戦略を立てても予定調和は成立せず、大なり小なり必ず予測しなかった何らかのトラブルが起きる。そのとき、どこで抑えるのか、どこで仕掛けるのか、その見極めが勝敗を決める。そのときに必要なのが創造力であり思考力で、思考力のないランナーは決して成功しません。

ただ速く走るだけでなく、考えることを求めた監督に対して、選手たちがどう答えて行くのかが読みどころです。

 

 

下巻は、気持ちを一つにして、目指すは三位以上という目標を共有した学生連合チームがどんな走りを見せるのか、そしてTVマンとして箱根駅伝の中継はうまく進行できるのか、男たちの真剣勝負の舞台が整ったところから始まります。

選手たちが抱える想いや覚悟、レース中の突然の不調や故障、箱根の悪天候、目まぐるしく動く上位争い、箱根駅伝を中継するTVマンたちの仕事ぶりなど、読み応えがあり一気読みでした。

どの選手にも事情があり、支えてくれる人がいて、様々な想いを乗せて走っている。選手たちそれぞれのドラマもよく考えられていたと思いますし、レース中の甲斐監督の一人ひとりへの声かけは素晴らしかったです。

仲間たちの想いやタスキの重みから、平常心でレースに臨むことが難しい箱根駅伝においては「メンタルが七割」と言われています。

想定外のことが起きるのではという不安や、どう走るべきか判断に迷うことからこそ、事前に様々な状況を想定し、議論しておくことがメンタルの強化に繋がっていきます。

何が正解かを判断するのは自分であり、それは人生にも通じるという考え方は印象的でした。

 

 

走っている選手だけでなく、監督や家族、チームメイト、応援してくれる観客、視聴者、そして中継しているTVマンたちなど、多くの人に支えられて箱根駅伝がある。

そんな箱根駅伝の魅力が存分に楽しめる感動の物語でした。

ちなみに、本書は2026年にドラマ化されるみたいですので、それも楽しみです。

参考サイト:日本テレビ 俺たちの箱根駅伝
https://www.ntv.co.jp/orehako/

 


俺たちの箱根駅伝 上下巻セット

カウンセラーの選びかた

カウンセラーの選びかた
ネヴィル・シミントン (著), 筒井亮太 (翻訳)


私はカウンセリングを受けたことはありませんが、自分自身が日々鍼灸マッサージの臨床で患者さんと向き合う際に、患者さんに対して励ましたり、慰めたり、褒めたり、注意したり、一緒に考えたりしているので、その参考になればと思って本書を読んでみました。

本書は、どうやってよいカウンセラーと悪いカウンセラーを見極めるか、についてカウンセラーの態度や振る舞いによる判別のヒントが描かれていました。

 

 

「心理療法は、その人の可能性を最大限に引き出すことを目的としている」ため、心地よいことばかり言うカウンセラーよりも、本当に自分が変わることを考えて、いやなことでも指摘してくれるカウンセラーが本当にクライエントのことを考えているカウンセラーであるという話は共感できます。

ほかにも、

・これまで分かっていなかったことや気付いていなかったことに気付けたか

・気分や気持ちが少しでも変化したか

・以前よりもいやな出来事や相手に対して、うまく対処できるようになったか

など、面接後のクライエント自身で、カウンセリングが有効だったか判断する方法が紹介されていました。

「よいセラピストのもっとも重要な特性は、あなたの物語のなかにある建設的要素を目覚めさせる能力である」という言葉も印象に残っています。

カウンセラーがクライエントの言動を観察するのは当然ですが、クライエントもまたカウンセラーのことを試したり、見極めたりしていることも忘れないように意識したいと思いました。

 

 

本書の終盤は、訳者の解説として日本のカウンセリング事情が記載されていました。

民間講座を受けただけの無資格セラピストでも自由にカウンセリングができてしまう現状において、どのような資格をもっていて、どんな訓練を受けてきたのかはカウンセラーを選ぶ際の重要な指針になると思います。

ちなみに、これはマッサージ業界にも言えることで、あん摩マッサージ指圧師の国家資格を取得して様々な場所で経験を積んでいる施術者と、短期間の研修を受けただけの無資格施術者とをどう見極めるのか、共通の課題があると思います。

 

参考ブログ:無資格者の施術について
https://nishigahara4-harikyu.com/blog/treatment-unlicensed-persons/

 

 

また、日本だと「カウンセリング = メンタルヘルス」と結び付けられ、否定的なニュアンスをもつことが多いそうです。

欧米では「自分を変えようと努力している」と受け取られるようですが、日本の場合は「精神的に問題がある人なのではないか」と思われてしまいがち、という問題もあるようです。

日本ではカウンセリングが自費であるため、色々と試してみるということは難しそうですが、カウンセリングを受けてみようと考えている人にとって、参考になる書籍だと思います。

 


カウンセラーの選び方

会社はどうあるべきか。 人はどう生きるべきか 評伝 伊那食品工業 塚越寛

会社はどうあるべきか。 人はどう生きるべきか 評伝 伊那食品工業株式会社 塚越寛
斉藤仁 (著)


塚越さんの年輪経営や幸せな働き方の本は読んだことがありましたが、貧困と病気で闘っていたことは知らなかったですし、どうやって今の会社の礎を築いてきたのか、興味深く読みました。

7歳の時に父を亡くし、母と自分と下の3人兄弟での貧しい生活に加え、高校生のときに結核を発症し3年の隔離生活を送らざるを得なかった逆境があったからこそ、本当の優しさや健康の大切さを誰よりも実感していたのだと思います。

 

 

「誰もが心地よく、働き甲斐があって、笑顔が絶えない会社にしなければ」という熱い想いを秘め、さらに環境が劣悪な会社で働くことになっても「これ以上の底はない。だからこれ以上落ちることもない。あとは上がるだけだ。夢がある。そう思えば力も出る」という逆境に立ち向かう力がすごかったです。

従業員たちに

「自分たちの会社なので、自分たちができることは自分たちでやるのが当たり前だと思った。みんなでやれば楽しい。設備が新しくなって会社がちょっとずつ大きくなっていくのが面白かった」

と言ってもらえるのは、塚越さん自身も率先して大変な仕事を行い、従業員と一緒に汗水流して働き続けたからだと思います。そんな従業員になんとか報いたい、という塚越さんの思いが心から伝わってきました。

 

 

1970年代には寒天の材料である良質な海藻が日本でほとんど買えなくなり苦しい時代を迎えます。

そんな中でも、チリやモロッコ、インドネシア、韓国など、海外に販路を拡大し、相手を信頼して相手の利益も考えてビジネスを行うという決断も素晴らしかったです。

さらに、どの国とも契約書を交わしておらず、信頼関係と誠意で何十年もうまくやっているというのは驚きでした。

また、増収増益を続けていながらも、大手スーパーからの引き合いを見送ったり、無理な増産や増設をせず、目先の利益よりも身の丈にあった安定的な成長を目指した年輪経営も、従業員たちの幸せを思えばのことだと思います。

そんな塚越さんの経営思想が、病気で亡くなった社員や、火事で家を失った社員に対して、全社員で助けるという考えに表れていて家族のような絆で結ばれている、というのは理想的な会社の在り方ではないでしょうか。

 

 

ほかにも印象に残った言葉を以下に要約して抜粋。

・企業経営で目的と手段をはきちがえてはいけない。金儲けは手段であり、目的は人の幸せのため

・寒天ブームは我が社にとって不幸な出来事である。なぜなら、そのブームは他力であって我々の努力ではない。他力で伸びたものは必ず萎む。有頂天になって必要以上の設備投資をしたり気が緩んだりするから、ある意味危険な状況だとも言える

 

 

・掃除は気づきの訓練だ。汚れているところを自分で探す。気づきこそ基本的な人間の能力の向上に繋がる。気づきは接客にも役に立つ。接客の基本は気づきだ。お客様が困っていないか、どんなことを望んでいるか、それを気づいて差し上げればお客様も喜ぶし、あなたたちも嬉しいはずだ。お客様を大切にしようとか、人のためになろうとか、そうした人として大事なことを気づきは育ててくれる

・しあわせってどんな形なんだろうとずっと考えてきた。人それぞれ価値観が違うから絶対的な形なんて存在しない。でも、ある程度物質的に不自由がないこと、もちろん健康であること、夢や楽しみも大事。そうしたことが末広がりに少しずつ広がっていく状態、それがしあわせの形だと思った

 


会社はどうあるべきか。人はどう生きるべきか。――評伝 伊那食品工業株式会社 塚越寛――

経営の失敗学

経営の失敗学
菅野寛 (著)


どうしたら成功するかのを定義するのはとても難しいので、これをやれば失敗するということを知ることで、気を付けるべきことを学ぶ一冊でした。

どうしたら成功するか、それが分かれば誰も苦労はしません。

ただ、成功しても次のヒット商品が出ず、市場がどんどん縮小して、事業を撤退することになればこれは成功とはいえません。

「持続的に利益が出ており、成長のための再投資や戦略変更のための投資が持続的に可能な事業である」

という著者の成功の定義は分かりやすかったですが、この「持続的」というのがとても難しいのです。

 

 

他者と同じことや今までの自社と同じことをやっていても成功せず(同質化)、今まで違うことをやっても成功しません。(異質化)

同質化では、差別性のない商品となって価格競争に陥り利益が減少する。

異質化では、慣れない不得意なことをやって失敗する。

松浦静山の剣術所「常静子剣談」から

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」

という言葉が引用されていて、失敗するケースの共通性を模索して、様々な角度からなぜ失敗するのかが考察されていたのは読み応えがありました。

 

 

以下に参考になった内容を要約して抜粋。

 

・情報が不完全でも、不完全な部分は仮説でもよいので現時点の結論を常に思っておく必要がある。情報が不完全だから意思決定ができない、というのであればいつまで経っても決断できない

 

・戦略とは企業の将来像とそれを達成するための地図である。地図には目的地(企業としてどうありたいか)、ルート(どうやって目的地にたどりつくか)、視点(何を重要と考えるか)の3つの要素がある

 

 

・自社の提供価値は何かを理解し、その価値を実現するために取れる手段は何かを考えることが大切。ヤマハは楽器を販売しているだけでなく、楽器の演奏を楽しむための教育や、人前で演奏する楽しさを与える場を提供するという価値を生み出している

 

・競合とは、顧客が考えるほかの選択肢のこと。あなたの競合が誰かを決めるのはあなたではなく顧客。それを勘違いすると、思わぬ競合の存在に気付かず、適切な対応がとれなくなる

 

・あらゆる行為に関して、その行為から何かを学び、その「前」と「後」で自分の行動をいかにより良く変えるのかを意識するかどうかで成長スピードに差が出る。小さな行為でも付加価値があるかどうかを意識することが大事

 


経営の失敗学 (日本経済新聞出版)