2023年1月下旬~2月中旬まで、北区区民大学が主催する
「癒しを科学する」
という講座を4回受講してきましたので、今回はその話を紹介いたします。
第146期北区区民大学「癒しを科学する」
https://www.city.kita.tokyo.jp/shogai_renkei/bunka/gakushu/shogai/kumindai/146kumindaigaku.html
講師は、日本文理大学工学部特任教授の北岡哲子氏です。
癒し工学という分野を研究されているそうです。
癒しという言葉が初めて出てきたのは1988年で、その後1999年に日本流行語大賞でトップ10に入り、癒しブームが到来しました。
癒しを必要とする人の心は、虚しさや孤独で満たされない状態にあります。
本講座では、癒しという言葉を研究するにあたり、以下のような定義づけがされました。
癒し:心の虚しさを独力で元に戻すことが不可能な人の心を、より好ましい状態に戻すことができる刺激
癒される:そのプロセスであり、心に虚しさがある人の状態が現状より少しでも好ましい状態に戻るその過程
海外では癒しにあたる言葉として”Healing”という言葉がありますが、これは治療的・宗教的な意味合いが強く、日本でいう癒しとはニュアンスが異なるようです。
また、癒しと似たような言葉や行為として、治療、恒常性による自然治癒、リラクゼーションがありますが、それらと区別するために、癒しの本質を以下の3つの要素と定義しました。
①共に在る
②受容される
③自分を取り戻す、自分の居場所
温泉やマッサージ、アロマなどはリラクゼーションと考え、美しい音を聴く、ペットと遊ぶ、本を読む、おいしいものを食べるといったことは癒しになるという考え方です。
また、誰かに甘えたり、自分の部屋で静かに過ごしたり、スマホやPCで非日常の世界で過ごすという行為も癒しにあたると考えるようです。
何が癒しになるかは、人それぞれですよね。
そのほか、講座ではどんな物に癒しを感じやすいか、癒される表情とはどんな表情なのかといった科学的な実験が紹介されました。
特に興味深かったのが、癒しの研究の中で開発した表情診断スケールが、精神科の医師との共同研究に使われ、表情からうつ病、パーキンソン病、頭痛などの疾病の有無や重症度の判断に使用されているということです。
ほかにも、タクシードライバーの表情から事故の危険度を推測したり、認知症の早期診断に使用したりと、他の分野でも活用が可能か研究しているそうです。
さて、講座を受けた感想ですが、癒しが心と体にどんな影響を及ぼすのか、治療やリラクゼーションと併用するとどうなるのかなどを知りたかったのですが、その点についてはあまり触れられなかったのが残念でした。
私の個人的な意見としては、治療、自然治癒、リラクゼーション、癒しにはそれぞれ相互関係があると思っています。
例えば「鍼を刺す」という行為が、治療としての自然治癒力を引き出しつつ、患者さんの話をしっかり聴くことで癒されたと感じてもらい、併用するマッサージやお灸の刺激が心地よいと感じる。
それらは相互性、連続性をもったものであり、患者さんが話を聴いてもらえなかったと感じたり、鍼を痛く感じたとしたら、治療や癒しとしての効果も変わってくるのではないかと考えます。
もちろん鍼を刺すという機械的な刺激だけ、電動マッサージ機による機械的な刺激だけでも、ある程度の効果はあると思いますが、最大限に効果を引き出すには、それぞれがうまく連動して働くことが必要なのかなと思います。
私は元々、鍼灸マッサージの技術だけで患者さんを良くなるとは考えていません。
鍼灸マッサージの技術を磨きつつ、患者さんによって心地よい環境や受容されたと感じてもらえる言葉かけや振る舞い、患者さんが自分を取り戻すきっかけになるような助言など、これからも様々な視点から施術を行っていきたいと思います。
参考サイト:癒し工学―起源から最新知見―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/82/1/82_36/_pdf