老後とピアノ
稲垣 えみ子 著
本書は、40年ぶりにピアノを始めた著者が試行錯誤しながらも、ピアノの楽しさに目覚め、上手く弾けるかは別にして、それでも楽しみながら続けていくことが大切だということに気付いていく過程を描いた実話です。
プロの先生からの指摘事項や難しい曲への挑戦、指の痛みとの戦いなどが正直に描かれていて、楽しみながら読むことができました。
本書に登場する子どもの頃の話で、
「楽譜を読む前に、ほぼ耳で全ての曲を覚えていたのが、今は楽譜を読みながら1音ずつ音を出す」
というのは、大人になって始めたらまさしくこうやって覚えていくしかないと思いますが、経験者でもそう感じるのだから、子どもの感性や能力は凄まじく、逆に大人はどんどん衰えていくのだと感じました。
発表会の章で書かれた以下の言葉にはとても勇気付けられました。
「全力で、心を込めて、勇気を出して、どんなひどい失敗をしてもどうにかして最後まで真剣に弾き切ろうとして出す音は、どうやったって聴く人の心をひどく打つのではないか」
もっとも印象に残ったのはプロローグに書かれている以下の言葉です。
「私にとってのピアノとは、老い方のレッスンなのかもしれない。どれだけ衰えてもダメになっても、今この瞬間を楽しみながら努力することができるかどうかが試されているのだ。登っていけるかどうかなんて関係なく、ただ目の前のことを精一杯やることを幸せと思うことができるのか?もしそれができたなら、これから先、長い人生の下り坂がどれほど続こうと、何を恐れることがあるだろう」
まさにその通りで、誰かと比べるためにピアノをやっているわけでもないし、今からプロを目指すわけでもない。
一歩でも先に進めたことに幸せを感じてそれを楽しいと思えれば、ピアノでなくても年を重ねても何でも楽しめると思いました。
私は現在42歳ですが、昨年の8月から初めてピアノを習い始めました。
著者は40年前、小学校に入る前から中学入学までピアノを習っていたということなので、全くの初心者で始めた私は本書を読んで、子どもの頃に習っているだけで数段高いレベルからスタートしていると感じました。
そもそもピアノを習い始めるまで、バイエル、ブルグミュラー、ツェルニーなどという言葉さえ知らなかったです。
さらに著者が40年ぶりに弾いた曲がきらきら星変奏曲でその次がショパン、正直、初心者には難易度が高すぎると感じました。
なにせ本当の初心者は「ドはここ、親指を置くんだよ」から始まり、楽譜の音符は全く読めず、楽譜が上の段と下の段に分かれているのはなぜ?ト音記号とヘ音記号の意味が分からず、最初はカエルの歌からのスタートだったのですから。
本書を読んでピアノを始めようと思った方は、まずその点を注意した方がよいと思います。
老後とピアノ