先日まで、鍼灸の専門書である
「針灸臨床ノート第1集~第3集」(代田文誌 著)
を毎日少しずつ読んで、ようやく読み終わりました。
(「はり」という漢字について、今は「鍼」と書くことが多いですが、書籍は「針」となっていたので、書籍名は「針」という漢字のままにしています)
代田先生は鍼灸業界ではものすごく有名な方で、いくつも症例報告をして、著書も多数あります。
本書は、代田先生が昭和34年から昭和46年8月までの十年以上の臨床での出来事や症例、患者さんとの関わり方などを書いた書籍です。
昭和34年というと、65年以上前に行った施術記録ですが、勉強になることが多かったです。
今回は、その中に出てくるお灸の話をいたします。
本書の中で何度も出てくる記述で、
「自宅で灸せしめた」
「毎日灸をすえてもらった」
という言葉がありました。
これは、
「施術した患者さんの体にお灸の印を付けて、家で毎日患者さんにお灸をしてもらった」
という意味です。(背中など自分でやるのが難しい場所は家族にやってもらったようです)
代田先生が施術をされていた昭和30年~40年代はまだ自宅でお灸をやる習慣があったのだと思います。
そうやって、毎日自宅で患者さんにお灸を続けてもらい、その結果、症状や疾患がどう変化していったのか、後日来院した時に確認するという症例が多かったです。
では、現代社会において、患者さん(またはその家族)に毎日家でお灸(※)をしてもらうことは可能か?
※ ここでいうお灸とは火をつけるだけの台座灸ではなく、もぐさをひねって皮膚に乗せる直接灸を指しています。台座灸なら不慣れな方でもすぐにできますが、もぐさをひねるとなるとコツがいるので、もっと手間と時間がかかるのです。
第3集の205ページに、以下の記載がありました。
「昨今の東京では、せっかく体を診てあげ、お灸のツボをおろしてあげたのに、お灸のつづかぬ人が多い。それはお灸を家庭ですえてくれる人がないからだ」
昭和30年~40年代においてもお灸をすえてくれる人がいないと書かれていますが、昨今ではさらに晩婚化、少子化、独居の増加がすすんでおり、昭和の時代以上にお灸をすえてくれる人はいないと思います。
さらに、昭和の時代よりも娯楽が増えて、働いている人が多くて忙しない現代社会においては、毎日お灸を続けるのは難しいのではないかと考えています。
ここで書かれた症例を参考にして施術をしても、毎日家でお灸をしてもらわないとよい効果が出にくいのだとしたら、現代社会でも対応できる別の何かを考えなくてはいけません。
もちろん「患者さんにもぐさをひねるお灸のやり方を教える」という方法もありますが、根気よく続けられるかは分かりません。
症例報告などを色々読んでいると、この症状ではこんなやり方が効いた、こんなツボを使ったらうまくいった、といったことに注目しがちですが、患者さん自身の治ろうとする努力が何よりも大切なことだと本書を読んで改めて考えました。
針灸臨床ノート 上巻(第1集・第2集)