「針灸臨床ノート第3集(代田文誌 著)」に書かれていた「針灸治療に伴うムード」の内容が興味深かったので紹介します。
(「はり」という漢字について、今は「鍼」と書くことが多いですが、書籍は「針」となっていたので、書籍名は「針」という漢字のままにしています)
第3集の210ページ~211ページの記載を以下に抜粋します。
まずは、一人の医師が語ったという言葉です。
「われわれの治療の際には、それの終わったあとに、すぐに気分がよくなったといってよろこぶ人などは、ほとんど無いといってよい。ところが、針灸治療を行うところをそばで見ていると、治療がすんだあとに患者さんが、明るいなごやかな顔になって、たいへん気分がよくなったといって、帰ってゆくことが多い。針灸治療にはそうした即効的な効果があることは確かだが、そればかりでなく、針灸治療の際の治療室の空気に、そうした特有のムードがただよっているのですね」
それについて、代田先生が書かれたことです。
「診察し、処置し、処方を書き、投薬をするといった医師たちの治療とはちがって、針灸の治療には治者と被治者とのあいだに、心の交流があるのである。患者の訴えるいちいちの症状の対して、それに相応する治療をおこなう。うつ針の一本一本に心がこもる。すえる灸の一つ一つに心がこもる。すみやかに病苦が除かれるようにとの、祈りの心がこめられる。こうした治療行為を通して、心がふれあう。まごごろの触れあいによって、一種の融和した雰囲気が生じ、患者の心が安らぎ、明るい気分になる。針灸の治療行為には、一種のムードを伴い、人の心を明るくし、なごやかにするようなムードをかもしだす」
この話はとても共感できる内容でした。
鍼灸治療というのは、鍼灸そのものの効果だけでなく、鍼によって伝わる響きや、灸よって伝わる温かさ、心地よさのようなものに加えて、患者さんと施術者の触れ合いがあり、会話があり、リズムがあり、それら全部が心理的な気分に影響を与えて、治療室の雰囲気を作っているのだと思います。
もちろん鍼灸だけでなくマッサージにも同じ要素がありますが、直接肌に触れて行う針灸の方がより独特のムードというか雰囲気が出て、それが癒しや心理的安定などにもつながりやすいかもしれません。
患者さんに安心感や期待感、心地よさや安らぎを感じてもらえた方が、より症状が改善しやすいと考えています。
そうした鍼灸マッサージ治療ができるよう心掛けていきたいです。
鍼灸臨床ノート 下巻(オンデマンド版)