限界国家
楡 周平 (著)
二十年後、三十年後の日本がどうなっていくのかについて、高齢者と若者の視点から小説形式で描かれていて考えさせられることが多かったです。
人口減少、産業構造の変化、雇用基盤の脆弱化など、今の日本が直面している問題が、いかに深刻かがよく分かる小説になっていました。
現在の政治家や役職についていた高齢者世代は、自分の出世や昇進、既得権益の保守ばかり考えていて先のことなんて知ったこっちゃないと思っている、という話は共感できました。
過疎高齢化が進む地域から代々受け継がれてきた伝統行事や祭りがなくなっていくという話も、人口が維持できなかったり、スポンサーになっていた商店が廃業してしまったりで、どんどん廃れていくというのも、すでに起きていることだと思います。
今の若い世代は、代々の政治家が行ってきた政治の延長線上で作られた国に生きていて、少子化、過疎高齢化はずっと前から問題視されていたのに改善どころか悪化しており、それを若い世代になんとかしろと押し付けられるのはたまったものではないという意見はもっともです。
だからこそ、今のネットネイティブ世代は国とか伝統への思い入れは少ないし、国境という概念のない世界で生きていくことが当たり前になっています。
IT技術が世の中をものすごいスピードで変えてしまい、今までの経験や知識が全く通用しない世界でいかに生き延びていくのか、これからの世の中はもっと大変になっていくと感じました。
また、人類は産業革命を経験してきていますが、過去の火を用いた産業革命と現在のコンピュータ、インターネットの出現による情報化社会の革命では、前者は新たな産業を創出し膨大な雇用を生んだのに対して、後者では雇用の創出どころか縮小させ労働の集約化が図られるという考え方は納得できる話でした。
技術の進歩は「人間の労働からの解放」であり、革新的な技術の誕生は効率化や人件費の削減に繋がります。
これから先の時代は人口減少に伴い、人手を減らす技術が導入され、「職業寿命」がどんどん短くなるという考え方は間違いないと思います。
では、職を失った人がどうなるかというと、その答えはなかなか見つかりません。
これからの日本が、ひいては世界がどうなっていくのか、その未来に向けて何を考えておくべきか、改めて考えるきっかけとなる一冊でした。

限界国家