淳子のてっぺん(幻冬舎)
唯川恵
2016年10月に逝去した登山家・田部井淳子さんの山にかける情熱がこれでもかというくらい伝わってきました。
・なぜ山に登るのか。自分の経験がどこまで通用するか試してみたい。そこに行かなければ見えない世界を見たいという好奇心。風の音、空の色、空気の匂いなんかを感じたい。
・山は人に生きる喜びを与える優しさと、容赦なく命を奪っていく冷酷さの2つの顔を持っている。
・登山は、体力と技術だけでなく、自己マネージメント力、他者への協力精神、そしてユーモアが必要で、笑うことでそれが気持ちに余裕をもたせてくれる。
山について感じたことを余すことなく語っており、実際に女性で初めてエベレスト登攀を果たした田部井さんの言葉だからこそ説得力がありました。
田部井さんが、女性初の記録を樹立できた背景には、
男はこうあるべきだ、
女はこうでなければならないといった固定観念をもたず、
料理、買い物、子育て全てに協力的で、鷹揚に構えていた旦那さんの存在がとても大きかったと思います。
全ては一歩から始まり、目的に到達するために一歩を踏み出し、もう一歩、さらに一歩。
それがどんなに小さな一歩であると、足を進めることで掴めるものが必ずあるということを山で学んだ田部井さんが、東日本大震災で被災した子どもたちにその一歩を体感してもらおうと始めた富士登山プロジェクトも素晴らしい試みだと思いました。
おすすめの一冊です。
淳子のてっぺん (幻冬舎文庫)