最後の祈り
薬丸 岳 (著)
結婚間際の娘を殺害された教誨師の保阪宗佑が、娘を殺害した犯人である石原の教誨を行うことになります。
殺人犯の石原に「生きる希望」を与えることで、死ぬ直前に地獄に叩き落とす言葉を突き刺し、娘の無念を晴らすために。
物語は教誨師の保阪、刑務官の小泉、殺人犯の石原の3人の視点で描かれていきます。
石原は「死刑にしてくれてサンキュー」と被害者遺族の感情を逆撫でする言葉を放ち、刑務所でも反省する様子は全く見られません。
そんな石原が保坂の教誨を受けることでどうなっていくのか、また保坂も果たして平常心を保つことができるのか、刑務官の小泉は石原とどう接していくのか、興味深くて読み応えがありました。
特に、石原が娘の由亜の最期の姿を語る場面は居たたまれなくなる保坂の気持ちが痛いほど伝わってきて、切なさと怒りがごちゃごちゃになるような感情に包まれました。
物語の本筋ではない部分ですが、保坂の前に死刑囚に教誨をしていた鷲尾の残した言葉が特に印象的でした。
まずは「死神の手先だ」という言葉。
確定死刑囚の精神状態が動揺したり乱れたりしていると死刑は執行されにくいが、心から罪を悔い改めて償いとして死を迎える覚悟ができたとみなされたときは処刑されやすい。
教誨師は確定死刑囚を速やかに滞りなく刑場に導くために存在しているという言葉はとても重かったです。
また、鷲尾が過去に自分が犯した罪を許せず苦しみもがいている中で、「死刑執行に立ち会うことが自分が犯した罪への罰だ」と受け入れ、死刑執行に立会い続けるという苦行も読んでいてつらかったです。
さらに、教誨師は無力なのかと問う保坂に対して、鷲尾が言った「せいぜい彼らが抱えている宿題を一緒に考えて悩んでやることぐらいしかできない」という言葉も心に響きました。
自分の身も心もを削って、娘を殺害した男の教誨を行い続けた保坂の胆力は凄まじく最期まで目が離せなかったです。
最後の祈り (角川書店単行本)