傘のさし方がわからない
岸田 奈美 著
本書は一万円選書のいわた書店(2回目当選)に選んで頂いた一冊です。
軽快な文章で、実際に経験した出来事をおもしろおかしく書くとともに、大事なところは言葉を選んでしっかりと伝えているのがよかったです。
著者の言葉には、相手を傷つけず、それでも言いたいことをしっかり伝えるという心遣いが感じられました。
私が印象に残った内容を以下に抜粋しました。
・困っている人を見つけて、自分がなにかできると思ったら、できるだけ迷わず声をかける。でも、期待をしない。自分が救いになるという高慢さをすてる。救えるのは自分だけ。声をかけたいから、かける。いらないとはねのけられたり、疎遠になったりしても、がっかりしない。ましてや、怒らない。いまはまだ、そのときではなく、その形ではないだけだ。扉のかぎを外し、入ってくるか、違う扉を見つけられるかを祈って待つ。
・「嫉妬は身を滅ぼす」という言葉があるように、大きくなりすぎた嫉妬の火は、火災を起こして焼きつくしてしまう。だからといって、火を使うことを止めてしまうのはもっとおろかなことだ。寒い冬には凍えてしまう。大切なのは、火を整えること。自分の向上に必要なだけの火を調整する力。火がちゃんと燃えていることに、自分で気づかなければいけない。これ以上燃えたら大変だ、という基準も知っておく。新しい挑戦をするために、意思と節度をもって、上手に火を燃やしていく。向上するために、ほどよい嫉妬という火を、ほどよく利用する。
・豊かさってなんだろう。わたしは大切な誰かに出会う度に、材質の異なる「芯」を、一本ずつ手渡されている。
「健康であること」、「お金があること」、「時間があること」、「未来があること」、「やりたいことをやる」とこんなふうに、出会う人たちから、芯を一本ずつもらってきた。今のわたしが、豊かさの芯として選び取ったのは「好きなことをして、好きな人と、好きに生きる」だ。
・障害者差別といえば、障害者がお店を追い出されたり、会社で働けなかったり、そういうとんでもなくおそろしいイメージが浮かぶかもしれない。いまはたぶん格段にへったけれど、残念ながら、差別は姿かたちをジワジワ変えて、いまもわたしのすぐそばにいる。世の雑踏に紛れるほどの変身を遂げた差別のことを、わたしは「思いこみ」と呼んでいる。
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